« 2011年01月 | メイン | 2011年03月 »
腟トリコモナス症を治すには?(その2)
前回、先日受けた、30代の未婚女性からのトリコモナスに関する電話相談の内容をご紹介しました。
病院で処方された薬についての疑問をまず伺い、私からアドバイスをしました。
詳しくはバックナンバーをご覧ください。
今回は彼女の相談の内容の続きです。
薬に関するアドバイスを聞いて安心したのか、彼女はさらに心配事を打ち明けてきました。
彼女にはパートナーがいて、彼もトリコモナスに感染してるのか?
また感染しているのなら、治療法はどのようになるのか、ということでした。
そこで私は、彼女のパートナーに関する、次のようなアドバイスをさせていただきました。
実は男性のトリコモナス感染症では尿道炎症状を起こすことがまれにありますが、ほとんど症状が出ることはありません。
またトリコモナス感染を起こす男性は、前立腺炎を持っているヒトが多いといわれています。
性感染症の感染経路は性器の結合、オーラルセックス、アナルセックスですが、オーラルセックスだけでトリコモナス症になるかというと、感染のリスクは低いでしょう。
パートナーが感染しているかどうかの検査については、トリコモナス原虫は前立腺や精嚢などにおとなしく棲息しており、単なる尿検査ではトリコモナスを見つけることはできません。
ですから原因をはっきりさせることはかなり難しいことだと言えます。
検査としては顕微鏡検査、培養検査、遺伝子(核酸増幅法)検査などがあります。
しかしながら、トリコモナス症に関しては残念なことに医師の診断能力の差もあり、これが診断を困難にしています。ですから、彼が感染しているかどうかは、ぜひ専門医に診てもらってください。
もし感染が明らかになった場合、「男性の治療」も、女性と同じ内服薬を服用いたします。
性感染症の治療においては男女の同時治療を行うことが基本で、これはトリコモナス感染症でも同じです。
尚、トリコモナス症では再発を繰り返すケースがありますから、直ったかどうかの治癒判定検査をおすすめします。
彼女はていねいにお礼を述べた後で、「パートナーにも専門医の受診を勧めてみます」といって電話を切りました。
性感染症は、恋人同士の間ではなかなか話題にしにくいかもしれませんが、健康なセックスのためには避けては通れないテーマです。そんな話もきちんとできるような、大人のお付き合いを、世の中のすべてのカップルに望みたいものです。
投稿者 aids : 11:52
腟トリコモナス症を治すには?(その1)
先日30代の未婚女性からトリコモナスに関する電話相談を受けました。
この女性には時々不正出血があったり、おりものが普段と違うという自覚症状があり、病院で検査を受けたところ、トリコモナスであるという診断を受けたそうです。
しかし、処方されたのが腟錠剤だけだったことから、治療法の確認をするつもりで、当院に電話をしてきたようでした。
そこでまずは、一般的なトリコモナスの治療法についてお答えしました。
日本の産婦人科では、トリコモナス症に対し腟錠のみを用いる腟内投与が一般的に行われています。
これは、腟錠を腟内に挿入する治療で臨床的に良くなる方が多いからだと考えられます。
しかし、日本性感染症学会の診断・治療ガイドラインによればトリコモナス症の推奨治療は内服薬として、メトロニダゾール500mg分2,10日間あるいは、単独投与法として1.5g単回投与をすすめています。
ただし、妊婦においては、腟錠を用いる腟内投与が一般的で、用いられる腟錠としては、メトロニダゾール(フラジール腟錠)、トリコマイシン(トリコマイシン腟錠)、トリニダゾール(ハイシジン)などがあります。
妊婦が内服した場合、メトロニダゾールは胎盤を通過し、胎児へ移行するのことがあるので、原則として妊婦への経口投与は行っておりません。
この女性の場合は、妊娠の可能性はないということでしたので、腟錠と併用する形で、内服薬としてメトロニダゾールを服用することをお勧めしておきました。
ここまでの話で安心されたのか、彼女はさらに質問をしてきました。
長くなりますので、こちらは次回にご紹介することにしましょう。
投稿者 aids : 11:45
皮膚科診療最前線シリーズ
《皮膚科診療最前線シリーズ》
「外来皮膚科ER最前線」
メディカルレビュ-社発行:2011年2月20日
編集 宮地良樹(京都大学大学院医学研究科皮膚科学教授)
【掲載内容 】
第3章 感染症
『8 単純ヘルペス初感染』の分担執筆者の一人です。
『彼氏との旅行から戻って外陰部の有痛性病変、排尿障害、歩行障害をきたした女性』
尾上智彦、伊東秀記、松尾光馬(東京慈恵会医科大学皮膚科学)、尾上泰彦(宮本町中央診療所)
*THE TAKE HOME MESSAGE*
1.女性での性器ヘルペス初感染は重篤となり、排尿困難、歩行障害をきたすことがある.
2.単純ヘルペスウイルスにより神経因性膀胱を呈する場合、Elsberg症候群と呼ばれ、導尿などの処置が必要となる.
3.感染したウイルスの型を判定することは、その後の再発の頻度を知るうえでも重要である.
*最前線から一言*
女性での性器ヘルペス初感染は重篤となる。
高度な疼痛、尿閉をきたすことがあり、そのような場合、入院のうえ抗ウイルス薬の点滴、導尿を行う。
投稿者 aids : 10:28
性器ヘルペスは皮膚病ではない?!(その3)
過去2回にわたって、性器ヘルペスの特徴とその治療法についてお話ししてきました。
皮膚・粘膜だけの病気ではなく、ウイルスが神経細胞内でも増殖する“神経の感染症”である性器ヘルペスには外用薬を用いるだけでは不十分だと、みなさんにもお分かり頂けたかと思います。
詳しくはバックナンバーをご覧ください。
しかし、現在、日本では性器ヘルペスの治療における内服薬の重要性については、臨床医の認識が足りず、外用薬が多く使用されています。
実際、外用薬のみを処方する医師が約40%いるとされています。
残念ながら性器ヘルペス イコール 皮膚疾患という概念が一般的になっており、性器ヘルペスは“ウイルス感染症”である概念が希薄です。
性器ヘルペスの再発時に抗ウイルス薬を服用し、ウイルス量を減らしておかないと、ウイルス量が増えたまま神経節で眠ってしまいます。
そうすると、何らかのわずかなストレスで再発を繰り返す傾向になります。
ウイルス量を減らし、再活性化を抑えることが治療には必要です。
この治療により、HSVに感染していないパートナーへの伝播を減少させることにつながります。
ですから、性器ヘルペスの再発時には是非、内服薬を、お飲みになってください。
投稿者 aids : 18:35
性器ヘルペスは皮膚病ではない?!(その2)
前回、性器ヘルペスは皮膚・粘膜だけの病気ではなく、ウイルスが神経細胞内でも増殖する“神経の感染症”なので、皮膚・粘膜にある病変を抑えるだけでは、治療効果は十分ではないというお話をしました。
性器ヘルペスの治療には内服薬の使用が効果的です。
内服薬は外用薬に比べて、表皮基底層の有効成分が高く保たれます。
ヒトの皮膚モデルを用いた抗ウイルス薬の試験測定値では、表皮基底層の抗ウイルス薬(アシクロビル)濃度は、外用薬よりも内服薬のほうが高く推移します。
抗ウイルス薬(アシクロビル)の外用薬では外用してから1時間後にピークを認めましたが、外用3時間後には表皮基底層の抗ウイルス薬(アシクロビル)濃度がかなり低下してしまいます。
それに反して、内服薬では内服3時間後の表皮基底層の抗ウイルス薬(アシクロビル)濃度は外用薬に比べて約5~8倍を示し、十分に治療効果が期待できるものでした。
しかも内服薬でなければ治療できない部分にも病変は生じます。
病変は外陰部だけでなく、子宮頸部、肛門、臀部、尿道など、肉眼では確認し難 い場所にも生じます。病変の大きさも肉眼ではほとんど見えないピンホールのようなものもあれば、外陰部全体に多発性に生じることもあります。
ですから、内服薬でなければ治療できない部分にもウイルスが排泄されているという考え方が必要です。
次回は現在の性器ヘルペス治療の問題点についてお話ししましょう
投稿者 aids : 18:27
性器ヘルペスは皮膚病ではない?!(その1)
ある日、新患として、23歳の未婚女性が私の診療所にやってきました。
と、開口一番、ろくに問診もしないうちから外用薬の請求です。
この様な患者さんがしばしば受診してまいります。
外用薬を塗れば確かに皮膚・粘膜症状は落ち着いてきます。
というのは、外用薬には皮膚・粘膜に生じた病変部の抗ウイルス作用や保護作用があるからです。
しかし、実は塗らないで放置していても症状は落ち着いてきます。
もちろん、塗らないよりは塗った方が1~2日早く落ち着いてきますので、外用薬の効果はゼロではありませんが、それほど劇的な効果は期待できません。
これは、どうしてか、少し勉強しましょう。
一度、感染したウイルスは神経節に潜伏し眠っています。
何らかのストレスなどがきっかけとなり、そのウイルスが目を覚まし、再活性化しウイルスが増殖します。
その増殖したウイルスが、再び神経線維を伝わって皮膚組織(または粘膜組織)まで移動し、再発病変(発赤・水疱・タダレなど)をつくります。
ですから性器ヘルペスは皮膚・粘膜だけの病気ではなく、ウイルスが神経細胞内でも増殖する“神経の感染症”なのです。
そのため皮膚・粘膜にある病変を抑えるだけでは、治療効果は十分ではありません。
では、どういった治療が効果的なのか、次回にご紹介しましょう。
投稿者 aids : 18:20
高齢者女性も淋病にはご用心(その2)
前回、「おりものが変だ」と言って受信してきた65歳の女性が、この年齢にしては珍しく、淋菌性子宮頸管炎出あったことをご紹介しました。
くわしくはバックナンバーをご覧ください。
話を聞いてみますと、このご夫婦は比較的高齢者でありながらSEXは週に1回程度あるそうです。
このことは大変素晴しいことだと思います。
でもこの患者さんは旦那以外とは、性的交渉はないそうです。
そこで「旦那さんはどうしていますか?」とききますと、2週間前から、ある病院の整形外科に入院しているとのこと。
「病気は何ですか」 「激しい腕の痛みがありました。病気は関節炎だそうです。抗生物質を何種類も使ったそうです。やっと落ち着いたようですが、原因は結局、分らないそうです」
私はこの話を聞いてビックリいたしました。
私が推察するには、この方の旦那さんは“播種性淋菌性関節炎”の可能性が大です。
でも今となっては何も分りません。
彼の受診した整形外科では、痛みがあった関節部の詳しい検査はしたと思われますが、男性生殖器に関する検査は恐らくしてないかもしれません。真に残念です。
さて、高齢者社会・時代の今日、高齢者といえども男であり、女であるわけですから、何歳になっても可能な限り、おおいに性的刺激、抱擁、キスなどなどをお勧めいたします。
それにより生活が、より豊かになり、心も豊かになり、人生にも張りがでてくることでしょう。
このご夫婦も健康なセックスができるようになることを、お祈りするばかりです。
投稿者 aids : 18:11
高齢者女性も淋病にはご用心(その1)
ある寒い朝、私の診療所に
「先生、おりものが変なんです。旦那が遊び人なんでちょっと心配で、診ていただきたいんですが・・・」
と言って65歳の女性が受診してきました。
早速、子宮頸管・腟分泌物の検査(顕微鏡検査・遺伝子増幅検査SDA法)を行ないました。
その腟鏡検査時に、子宮頸管から膿性の分泌物を認めました。
65歳という年齢から考えて、淋菌感染症は考えにくいと思っていたのですが、HE染色の顕微鏡検査では多核白血球を多数認め、その多核白血球の細胞内に貪食された双球菌を認めました。
これは男性の淋菌性尿道炎と同様の所見です。
つまり、この65歳の女性は立派な淋菌性子宮頸管炎ということになります。
若い女性の子宮腟部・頸管部の粘膜には円柱上皮細胞が存在します。
淋菌やクラミジアはこの円柱上皮細胞が好きで、この細胞のあるところに好んで住み着くと考えらています。
しかし閉経期を過ぎますと、この円柱細胞が子宮腟部・頸管部から消失していきますから、淋菌感染症やクラミジア感染症に罹りにくくなると考えられています。
ですからこの65歳の女性の淋菌感染症は比較的珍しいともいえます。
となるとその原因が問題です。そこで感染機会・性行為についての問診を進める事にしました。
この続きは次回にご紹介しましょう。
投稿者 aids : 18:04
尖圭コンジローマの予防ワクチンに関する質問あれこれ(3)
以前の「尖圭コンジローマの予防ワクチン」のコラムについて、読者の方からいくつか質問が来ました。
今回は別の質問についてご紹介しましょう。
いただいた質問は、パートナーが尖圭コンジローマになった男性からで、
泌尿器科では今のところ異常なしと診断されたが、今後、男性もワクチン接種を受けたら、HPVウイルスを無くすことができるか?というものです。
泌尿器科で診察を受けて、現在の状態で尖圭コンジローマが外陰部(ペニスなど)にできていないということは、臨床的には、大変喜ばしいことだと考えます。
しかし、そこに尖圭コンジローマの原因となるHPV(低リスクグループ)がいるか、いないかまでは分りません。ウイルスは目視では判別できないからです。
尖圭コンジローマの原因となる低リスクグループのHPVがいるかどうかの遺伝子レベルの検査もあります。
しかし、その結果、もしHPVの存在が分っても、それが原因で、将来、尖圭コンジローマが生じるかどうかも分りません。
また、逆にHPVの存在がないと分っても、将来、尖圭コンジローマが生じないという保証はありません。
研究施設では尿検査、精液検査で多くの男性にHPVが発見できることもあります。
ですから見つかっても、見つからなくても同じだと考えてよろしいでしょう。
ではHPVワクチン接種でこの“HPVを無しできるか?”ですが、これは難しい問題です。
近い将来、承認・発売されると言われている、4価ワクチン(Gardasilガーダシル)を接種すれば約80~90%に効果があるのではないかと考えます。
以上が私の見解です。皆さんのご参考になれば幸いです。
投稿者 aids : 17:53