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尿道下裂と性感染症(後編)
前回は、3人の男性患者の症例を紹介し、
その患者さんの陰茎の共通点が「尿道下裂」であることをお話しました。
「尿道下裂」とは一言で言うと、尿道が裂けている状態で、
発育の途中で何らかのホルモン異常があったと考えられているということもご説明しましたね。 今回はその続きをお話しましょう。
「尿道下裂」は、その程度がひどければ、生まれた時に分かるわけですが、
程度が軽ければ、産婦人科医や両親も気が付きません。
大きくなって、立小便ができて、オナニーができれば、本人ですらも気が付かないものです。
そのまま大人になり、何かの時に泌尿器科医が診れば、指摘を受けるかもしれません。
でも、おしっこ(立小便)ができ、セックスが可能であれば、
臨床的には問題ないと考えられています。
しかしながら、これらの成人患者の外尿道口をよく観察すると、
本来、尿道になるべき陰茎背面にある尿道口は盲端になっており、
そこからは尿も精液も排出されません。
つまり、外尿道口の腹側面から尿と精液が排出されるわけです。
しかしながら排尿時に、尿が分裂したり、散乱することがあるかもしれませんが、
問題なく日常生活や性交渉はできます。
ただし、性感染症の側面からみると大きな問題点があります。
通常、成人男子の外尿道口はスリット形(縦長)を呈し、大きさは
約5~10mmです。
一方、尿道下裂の方は、程度の差はありますが10~20mmです。
つまり、正常な男子と比較すると、尿道口の大きさが約2倍程度大きいということです。
一言で言いますと、尿道口が広がっているということです。
本来、尿道口は狭くなっておりますが、それは、尿を勢いよく出し、
精液も勢いよく出すためにそういう仕組みになっています。
さらに、病気の原因となる微生物、つまり外敵が侵入しないように狭くなっているわけです。
ということは、尿道下裂の方では、この機構が壊れているため、
もしそのパートナーが病気の原因となる微生物を持っていれば、
容易にその侵入を許してしまいます。
感染防御機構が働いていない状態となり、あらゆる性感染症に対して無防備になります。
性感染症のリスクが大変高くなるのです。
一度、ご自分の尿道口をよく観察し、もしも気になれば、泌尿器科医の診察を受けましょう。
そして、安心いたしましょう。
最後に、軽い尿道下裂があっても、パートナーが性的に健康であれば何もご心配ありません。
「君子危うきに近寄らず」ですね。
それではご機嫌よう!
投稿者 aids : 19:56
尿道下裂と性感染症(前編)
20代前半の男性が受診してきました。
「先生、尿道の入り口にイボができちゃった」とのこと。
『痛くありませんか?』
「痛くも痒くもありません」
陰茎を診察すると、確かに尿道の入口から、直径5mm大のイボが顔を出しています。
診断結果は、尖圭コンジロー
マでした。
また、別の30代前半の男性が受診してきました。
「どうされましたか?」と聞くと、
「尿道の中が白くただれてい
ます」と言います。
診察すると、外尿道口より約3mm奥に、直径4mm大の白い潰瘍ができていました。
「痛くありませんか?」と訊ねると
「痛くありません」と言います。
さらに、「3週間ほど前にエッチしましたか?」と聞くと、
「エッ!なんでわかるんですか?」との返答。
臨床診断は梅毒の初期症状の硬性下疳でした。
オーラルセックスによって引き起こされることの多い症状です。
次に受診してきたのは、20代後半の男性です。
彼の訴えは、
「先生、おしっこのし始めがものすごく痛くて、黄色い膿が出ているんです」とのことでした。
診察すると、外尿道口から溢れんばかりの黄色い膿が出てきました。
典型的な淋菌性尿道炎です。
さて、これら3人の男性の症状には、ある共通点がありました。
それは一体何かと言うと、「尿道下裂」です。
「尿道下裂」とは男性のオチンチンの先天的(生まれつき)な形態異常(奇形)です。
この尿道口の奇形は大変多く、外来で一番多く見られます。
男性外性器の発育分化には、胎生期の性ホルモンの作用が必要であり、
このホルモンの分泌や作用に、何らかの問題があったと考えられていますが、
はっきりとは解明されていません。
この状態を一言で言うと、尿道が裂けている状態です。
専門的には陰茎腹側面の発育に欠陥があり、その近くに外尿道口が開いている状態です。
では、次回は、この「尿道下裂」についてもう少し詳しくご説明いたしましょう。
投稿者 aids : 11:32
スキンシップでうつる疥癬(後編)
前回は、疥癬という皮膚病には2種類あり、そのうちの一つが、角化型疥癬という 感染力の強い疥癬だということをお伝えしました。
今回は、感染した場合の 症状と治療についてお伝えしましょう。
ヒゼンダニは、感染してから1~2ヵ月経つと、胸や指の間などに赤い ブツブツができ始め、強い痒みを起こします。
よく手のひらに線状の『疥癬トンネル』を作って、約1ヵ月間、卵を産み続け、卵から約2週間で成虫になるサイクル(生活史)を繰り返すことで、症状を持続させているのです。
この虫が見つからないと確定診断ができず、診断が難しいといわれています。
痒みが強いため、診断がつかないままステロイド外用剤による治療を続け、症状が悪化し、家族内に感染が広がるケースもあります。
治療には、内服薬と塗り薬があります。
最も有効なのは、イベルメクチン という内服薬の駆虫薬です。よく効きます。
しかし、妊婦や体重15kg以下の子供には毒性が強く使用できません。
塗り薬にはクロタミロン(オイラックス)がありますが、やはり妊婦や小児には 広範囲に大量は使用できず、しかも効果が弱く、有効な塗り薬がないのが現状です。
海外では、より効果の高いペルメトリンという塗り薬があり、妊婦や乳幼児にも 使用されていますが、日本国内では未承認です。
日本でも、より安全性の高い薬の開発が望まれるところです。
最後に、長時間のスキンシップ(肌と肌が直接触れる)で感染しますから、性感染症としての側面もあり、お父さんが何処かから貰ってくると、家族中に 感染するかもしれませんよ。
まさに、“君子危うきに近寄らず”といったところでしょうか。
それでは、ご機嫌よう。
投稿者 aids : 00:03
スキンシップでうつる疥癬(前編)
とても寒い日の午前診療中に「あそこが痒いんです!」と、
30代後半の男性サラリーマンが受診してきました。
話を聞くと、夜中になると、あそこが猛烈に痒くなるとのこと。
あそことは、陰嚢のことである。
診察すると、左右の陰嚢皮膚がデコボコになっており、赤い 3-5mm大の結節が多数見られます。 また、手指の指と指の間(指間)、そして、胸などに赤いブツ ブツができていました。
疥癬(かいせん)は、ヒゼンダニという体長、約0.4mmの虫です。
比較的柔らかい皮膚表面の角質に寄生します。
痒みが主な症状の皮膚病ですが、夜中に激しい痒みに襲われるというのも特徴の一つです。
ただし、通常疥癬と、感染力の強い角化型疥癬の2種類があります。
この2種類がどう違うかというと、同じヒゼンダニによる皮膚病なのですが、患者さんに寄生しているヒゼンダニの数が違います。
通常疥癬では重症例でも1,000以下なのに対し、角化型は100万~ 200万と桁違いに多く、感染力が強いといわれています。
角化型は免疫力が落ちた高齢者に発症しやすいと言われ、病院や介護施設(老人ホーム)で集団感染することが多く、時々、ニュースにもなっています。
スキンシップ(肌と肌が触れる)やタオル、ベット、 リネンなどから感染するんですね。
では次回は、感染した場合の治療について、詳しくお伝えすることに致しましょう。
投稿者 aids : 10:25
ヘルペスの治療に包茎手術?!
再度、同じドクターから“性器ヘルペス”の治療についてのご質問がありましたのでそのお話をいたします。
【相談】
先日はご教授ありがとうございました。 でもわたしはバルトレックスを何時も1週間を始めに出して終わりにしていました。 何も問題がないようでした。追加はしていません。外用はゲンタシンかリンデロンVGクリームを使っています。 包茎内に出来る人は包茎を手術した方が出来る頻度が減って、 出来ても軽く終わるという経験と考えを持っていますが、先生も同じ考えでしょうか?
宜しくお願いいたします。
【回答】
保険診療において、初感染(あるいは初発)の場合は投与期間は10日間まで投与可能です。ですから7日間はOKです。しかし、再発の場合は5日間が限度ですから、7日間投与は不適切です。 前回お話いたしましたが、外用薬は必ずしも必要ではありませんが、 病変部位(ビラン面、潰瘍面など)を消炎、保護する意味ではよろしいかと考えます。ゲンタシン軟膏でも良いと思います。
特にゲンタシン軟膏は細菌の二次感染を伴う場合あるいは二次感染を予防する意味では有効と考えます。 私は、基本的には、粘膜部、皮膚粘膜移行部にはリンデロンVG(ストロングタイプ)は使用しないようにしております。短期間であれば良いかもしれませんが、性器ヘルペスには用いない方がよろしいかと存じます。
性器ヘルペスと包茎の関係ですが、これについてはエビデンスがないので私にはわかりません。
性器ヘルペスの初感染は性感染症ですが、再発は何らかのストレスで発症してきますから本人にとっては性感症ではありません。しかも、性器ヘルペスは未治療(放置)でも皮膚粘膜症状は良くなりますから、 包茎の手術をした方が、再発頻度が減るか否かということはわかりかねます。
ですが、性器ヘルペスの再発は、同じ神経線維を伝わって、同じ個所(部位)に再発する傾向がありますから、再発する箇所がわかっていれば、その個所を含めた包皮を切除すれば再発頻度が減少するかもしれません。先生が言われるように包皮は再発部位としては最も頻度が高いと考えられますから、この包皮の部位を切除すれば臨床的意義はあるとも考えられます。
先生、いいご質問をいただきありがとうございました。
お元気で!
投稿者 aids : 15:35
「性器ヘルペス」の治療は難しい
最近、あるドクターから“性器ヘルペス”の治療についてのご質問がありましたので、今回はそのお話をいたします。
【質問】
性器ヘルペスにバルトレックス内服薬1週間と外用、アラセナと出して大丈夫ですか?
外用薬はゲンタシンの方がよいですか? 保険チェックの話ですが、宜しく願います。
【回答】
性器ヘルペスの一般的治療(重症例を除く)についてお話しします。
<初感染の場合>
先ずバラシクロビル(バルトレックス):1回500㎎ 1日2回 5日間投与します。
その後、症状の改善がみられなければ、さらに5日間投与できます。
しかし保険上、総計10日間が限度です。
<再発の場合>
バラシクロビル(バルトレックス):1回500㎎ 1日2回 5日間投与できます。
しかし再発例の場合、保険のシバリ上この5日間のみの投与になります。
<外用薬について>
先ず、抗ウイルス薬の内服薬(バルトレックス)を投与した場合は、 抗ウイルス薬の外用薬(アラセナA軟膏)の同時投与はできません。現在の保険診療では不適切な治療となります。
しかし抗ウイルス薬の内服薬を投与していなければ「抗ウイルス薬の外用薬」の投与が可能です。 また、抗ウイルス薬の内服薬(バルトレックス)を投与した場合の併用外用薬は下記のものをお勧めいたします。 非ステロイド外用薬(コンベックス軟膏、アズノール軟膏、スタデルム軟膏、白色ワセリンなど)、ゲンタシン軟膏などです。
この外用薬の使用の意義は、病変部(ビラン、潰瘍、発赤など)の消炎、保護作用などにあると考えています。 抗ウイルス作用ではありません。
<性器ヘルペス再発抑制療法>
年間に6回以上の再発を繰り返す場合、患者本人が希望すれば 再発抑制療法を積極的に導入すべきです。患者さんのQOLが向上し、パートナーにも恩恵があると考えます。
<最後に>
性器ヘルペスは外陰部だけに発症するものではありません。 尿道内、子宮腟部、肛門部、臀部などにも発症いたします。 目に見えないところにもウイルスの排泄があります。ですから、外用薬(抗ウイルス薬)の使用は患者さんにはあまりメリットがありません。
ここで外用薬(抗ウイルス薬)の実験データをご紹介いたします。
外用薬(抗ウイルス薬)を皮膚粘膜に塗布しますと、表皮基底層の抗ウイルス薬濃度は塗布して1時間後に ピークを認めましたが、その濃度も内服薬投与時の2分の1以下です。
しかも3時間後には濃度は低下していました。ですから、外用薬(抗ウイルス薬)は継続して何回も塗布すれば効果は多少ありますが、あまり患者さんにはメリットが望めません。
つまり抗ウイルス薬の内服薬(バルトレックス)の服用をお勧めいたします。
2006年にはFDA(USA)から以下のような勧告がありました。
『性器ヘルペスには外用薬を使うな!』
つまり、性器ヘルペスは皮膚・粘膜症状の病気が本体ではなく、 神経のウイルス感染症と理解すべきです。ウイルスは性器に感染すると神経を伝って腰仙髄神経節に遺伝子として潜伏感染(冬眠)します。 そして何らかのストレスがあると腰仙髄神経節に遺伝子として潜伏感染(冬眠)していたウイルスが 目を覚まし神経を伝わって、皮膚・粘膜まで上行しそこで性器ヘルペスとしての”花”を咲かせます。
先生、ご質問ありがとうございました。
投稿者 aids : 14:56