泌尿器科専門医 ドクター尾上の医療ブログ:泌尿器科専門医 ドクター尾上に寄せられるさまざまな性感染症のトラブルについて専門家の立場からお答えします。

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2013年01月07日

性器ヘルペス 臨床の最前線(その6)

今回は『6.鑑別診断』と『終わりに』についてお話します。

鑑別すべき疾患として a.帯状疱疹、b.薬疹、c.毛嚢炎、d.ベーチェット病、e.梅毒(硬性下疳)、f.軟性下疳、を紹介しました。
 
<終わりに>
  1. 現在、臨床医が行っている、主に問診・視診のみでの性器ヘルペスの診断にはあきらかに限界があります。
  2. 適正な病原診断に基づく性器ヘルペスの臨床的管理という理想像にはほど遠い現状です。
  3. 現在、健康保険で使用可能なものは、蛍光抗体法と抗体測定法だけです。
  4. 正確・迅速で感度・特異性がよい診断法の早期保険適応が望まれます。
  5. 性器ヘルペスは再発との戦いです。それをサポートするのがドクターです。
    患者と医師の共同作業です。
再発抑制療法を悩める患者のために是非、トライアルしてください。
長い間、お付き合いいただき、ありがとうございました。

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投稿者 aids : 15:48

性器ヘルペス 臨床の最前線(その5)

それでは『実際の治療』についてお話します。
 
<重症、免疫不全者の場合>
点滴静注用アシクロビル:1日5~10mg/kgを1日3回、8時間毎に1時間以上かけて、7~10日間点滴静注します。
 
<初感染または初発の場合>
軽症、中等度 バラシクロビル : 1回500mg、
1日2回 5~10日間 経口投与します。
 
<再発の場合>
軽症、中等度ではバラシクロビル : 1回500mg、
1日2回 5日間 経口投与します。
 
再発時の治療法は次の三方法があります。
  1. Episodic treatmennt:発症後に抗ウイルス薬を投与する
    保険適応です。
  2. Patient-initiated treatment:前駆症状が出現した場合にすぐ抗ウイルス薬を投与する。保険適応なし。
  3. Suppressive treatment:再発抑制療法
    抗ウイルス薬を継続的に内服します。ただしシバリがあります。
ここで再発抑制療法について少しお話します。
再発抑制療法は、性器ヘルペスの発症を繰り返す患者に適用されます。おおむね年6回以上の頻度で再発する者を対象とされます。これは医師の裁量で決めることが可能です。
  • 健常人においては、
    バラシクロビル:1回 500mg、1日1回 約1年間内服します。 
  • 抑制療法中に再発が認められた場合
    バラシクロビル:1回 500mg、1日2回投与・5日間に変更します。治癒後は必要に応じ バラシクロビル:1回 500mg、1日1回投与の再開を考慮します。
性器外のヘルペスとして臀部と乳房に発症するヘルペスを紹介しました。
次回は『6.鑑別診断』についてお話します。
 
 
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投稿者 aids : 15:40

性器ヘルペス 臨床の最前線(その4)

今回は『5.治療』につてお話します。
 
治療にあたっては、先ず、性器ヘルペスは単なる皮膚・粘膜疾患ではなく、神経のウイルス感染症であるという認識が必要です。残念ながら、日本の一般臨床医は性器ヘルペスは皮膚・粘膜疾患と考えているのが実情です。

念のため、外来で処方する外用薬のメリットとデメリットについて紹介いたします。
外用薬では表皮基底層の有効成分濃度が1時間後にピークを認めますが、3時間後には濃度は低下してしまいます。ですから外用薬は表皮基底層の有効成分濃度が十分な薬用量に達しません。
それに比して内服薬は表皮基底層の有効成分濃度が高く保たれます。
しかも、外用薬には耐性ウイルスの発生の可能性があります。
そして、2006年6月にFDAからの次の警告がありました。 
“外用薬は性器ヘルペスに使うな!”
ですが、外用薬は、簡便に使用できます。しかも外用薬を持っていれば医師を受診することなく使用できます。
また性器ヘルペスは病変部以外にもウイルス排泄があり、他への蔓延の可能性があります。ピンホールの様な小さな病変もあります。ですから、性器ヘルペスの治療は内服薬が必要となります。
残念ながら日本では外用薬が多く使用されています。外用薬のみを処方する医師が約40%いるとされています。臨床医は性器ヘルペス=皮膚疾患という概念が一般的で、神経のウイルス感染症という概念が希薄です。

それでは、次回は『実際の治療』についてお話します。

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投稿者 aids : 15:36

性器ヘルペス 臨床の最前線(その3)

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今回は『4.臨床例の実際』についてお話します。
 
プレゼンテーションでは、初感染例と再発例の実際を紹介しました。特に、女性の性器ヘルペスの特徴について紹介しました。
女性の性器ヘルペスは深刻な疾患です。また、女性の方が男性より罹患率が2倍以上高いとされています。
女性の性器ヘルペスは、臨床症状が激しく発熱、疼痛、膀胱炎様症状、歩行障害、鼠径部リンパ節有痛性腫脹などを認めます。排尿障害、便秘などの末梢神経麻痺を伴うこともあります。
ときに強い頭痛、項部硬直などの髄膜刺激症状を伴う場合があります。さらに再発を繰り返す場合は、QOLが低下します。
 
それではどうして女性に多いのか?
確かに、世界的に性器ヘルペスは女性に多い疾患です。
それでは、何か原因はあるのか?
女性では、感染部位が外陰・腟であるため、粘膜部分が広範囲であり感染しやすい状況にあります。それに比べて、男性は粘膜部分の範囲が狭い。さらに免疫能力を低下させる黄体ホルモンの影響で、妊婦や排卵後は感染しやすいとされています。
 
ここで女性の性器ヘルペスの症状であるElsberg syndromeを紹介します。これは馬尾症候群を呈する進行性炎症性多発神経根炎です。尿意を感じない神経因性膀胱となり、カテーテルの挿入が必要となるケースもあります。HSVが上行性に仙骨神経根に直接進展し、限局性の髄膜脊髄炎が起き排尿障害などを生じます。
 
さて、ここまでのプレゼンテーションの中で大切なポイントは、性器ヘルペスの初感染は性感染症そのものですが、再発は性感染症かというと?
再発は性感染症ではありません。何らかのストレスで発症します。ただし発症すると、パートナーにとっては性感染症になり得ます。このことを、はっきりと認識してほしいと思います。
 
次回は『5.治療』についてお話します。


投稿者 aids : 15:32

性器ヘルペス 臨床の最前線(その2)

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 今回は、性器ヘルペスの『3.診断・検査』についてお話します。
臨床において、現在のところ、保険で認められた検査で迅速に確定診断することは難しい状況にあります。したがって、殆どの場合、臨床症状と問診・視診の組み合わせのみで鑑別診断を行わなければなりません。
そして、病原診断には迅速かつ簡便、感度特異性の高い検査が望まれますが、現在、診断に有用な検査としては
  1. ウイルス分離培養(ゴールドスタンダードといわれ特異性が高く、型判定が可能です)
  2. 核酸増幅法[PCR法](特異性が高く型判定が可能です)
  3. 抗原検査[蛍光抗体法](特異性高く型判定が可能です)
  4. Tzanck試験(外来で迅速簡便に検査が可能で、ウイルス巨細胞を認めればウイルス性疾患[HSVorVZV]として診断が可能です)
  5. 血清抗体検査(臨床的意義が低いとされ型判定もできません)
があります。
しかしながら保険適応されているのは抗原検査[蛍光抗体法]と血清抗体検査のみです。
現在、私のお勧めする検査は抗原検査[蛍光抗体法]です。
しかしこの検査は水疱が無い状態ではウイルスの検出率は低いのが実際です。水疱が認められれば、是非トライアルしてほしい検査法です。

また、性器ヘルペスの診断にはHSV(単純ヘルペスウイルス)の型判定が有用です。
その理由として下記のa.b.c.があります。
a. 初感染例:HSV-1が検出されることが多い(70%)
b. 再発例:HSV-2が検出されることが多い(95%)
c. 再発の頻度:HSV-2 (95%) ≫ HSV-1(5%)

従って、HSVの型を調べておくことは、その後の治療戦略を大きく左右いたします。経過観察には非常に重要となります。
さらに、今回、アルフレッサ ファーマ株式会社がイムノクロマト法による新しい単純ヘルペスウイルス抗原迅速検出キットを開発いたしました。ここで、このキットの内容を紹介いたします。
このキットは、2011年度に厚生労働省において体外 診断薬として認可され、現在、保険適応の申請中です。
HSV感染症は、臨床現場でHSV抗原の証明による確定診断は、ほとんど行われていません。
そこで、イムノクロマト法を測定原理とする新しい単純ヘルペスウイルス抗原検出キットの基礎的・臨床的性能を評価し、その有用性を検討しました。
その結果、簡便な操作性に加え、ウイルス分離同定法と同等の性能を示したことから、HSV感染症の迅速診断検査として有用であることが証明されました。
繰り返しますが、性器ヘルペスにおける検査の目的は、まずHSV感染の診断です。ですから臨床現場でのHSV感染症の迅速診断検査として、このキットは有用です。
 
さらに近年、新しい検査法が次々と開発されています。
LAMP法やPCR法といった核酸検出法は、優れた検出感度を有する検査方法です。
またPURE/LAMP法は、HSV-1およびHSV-2の検出および型判定に関して、従来のLAMP法およびPCR法と同等以上の感度、特異度が期待されています。
この高い感度、特異度を有するPURE/LAMP法は,臨床的にHSVの迅速検査法として普及と保険適応が早期に望まれる検査方法です。

次回は『4.臨床例の実際』についてお話します。

投稿者 aids : 15:26

性器ヘルペス 臨床の最前線(その1)

2012年12月8日(土)、9日(日)の2日間、長良川国際会議場で「日本性感染症学会 第25回学術大会」が開催されました。
私は今回、この学会でアルフレッサ ファーマ株式会社によるランチョンセミナーの講演依頼をされました。ランチョンセミナーの要領は下記の如くです。
 
【日時・場所】2012年12月9日(日)長良川国際会議場
【座長】早川クリニック 院長 早川 謙一 先生
【演題】『性器ヘルペス 臨床の最前線』
【演者】宮本町中央診療所 院長 尾上泰彦                  

プレゼンテーションの内容は
  1. 性器ヘルペスの特徴
  2. 発症のメカニズム
  3. 診断・検査
  4. 臨床例の実際 初感染例 再発例
  5. 治療
  6. 鑑別診断
以上です。
 
以下が講演要旨です。この中で今回は『1.性器ヘルペスの特徴』についてお話します。
ヒトヘルペスウイルスはα、β、γの3種類の亜科に分類されています。性器ヘルペスの原因となるHSV-1およびHSV-2はαヘルペスウイルスに属します。

臨床的特徴としては
  • 比較的多い性感染症です。
  • HSV 1型または2型の感染によります。
  • 初感染時、約70%の症例で無症状に経過します。
  • 初感染は症状が激しく、再発では症状は軽くなります。
  • 初感染後1年までは、無症候性にウイルス排泄が多く認められます。
  • 初感染者のパートナーの約75%は罹患していることに気付いていません。
  • 受診してくる患者は再発例が約95%とかなり多く、初感染例は少ない。
次の『2.発症のメカニズム』に関しては、初感染と再発のメカニズムについて言及しましたが、今回、その内容は省略いたします。
次回は『3.診断・検査』についてお話します。
 
 
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日本感染症学会 長良川国際会議場にて 国立感染研の山岸先生と共に
 
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座長の早川謙一先生と共に

投稿者 aids : 15:15

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