泌尿器科専門医 ドクター尾上の医療ブログ:泌尿器科専門医 ドクター尾上に寄せられるさまざまな性感染症のトラブルについて専門家の立場からお答えします。

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2013年06月27日

【子宮頸癌ワクチン 接種呼びかけ中止】

子宮頸癌は数年~数十年にわたって、持続的にヒトパピローマウイルス(HPV)に感染した後に起こるとされています。
子宮頸癌の予防ワクチンは、子宮頸癌全体の50~70%の原因とされる2種類(16型・18型)のHPVに予防効果があります。
HPVの感染や癌になる過程の異常(異形成)が90%以上予防できたとの報告があり、これに引き続いて起こる子宮頸癌の予防効果が期待されています。
子宮頸癌の予防ワクチンは世界保健機関(WHO)が接種を推奨し、120カ国で接種実績があります。また多くの先進国では公的接種されています。
ところが、今年4月に公的に定期接種の対象にしたのに、わずか2カ月で「ワクチン接種の中止はしないが、推奨はやめる」と決定されました。 歩行障害やけいれん、体の複数部分に慢性的な痛みが生じるなど、重い副作用が相次いで報告されたためです。
この報告を受け、接種対象となる女の子の親達は動揺しています。確かに副反応の心配を抱えたまま、子供たちに接種を受けさせるわけにはいきません。
今回はこのテーマについて、現在の状況を具体的にお話いたしましょう。
平成25年6月14日に、厚生労働省より各都道府県知事あてに、「ヒトパピローマウイルス感染症の定期接種の対応について」積極的に接種を勧奨すべきでないとの勧告が通達されました。その内容は次のようなものです。
1.積極的接種勧奨の差し控え
この7月中旬の中学1年生女子を対象に個別通知を発送する予定でしたが、専門家による再評価により結論が出されるまで延期いたします。
2.ワクチン接種は可能であることの説明
これは接種勧奨の差し控えであって接種中止ではありません。保護者に有効性とリスクを十分に理解してもらったうえでの接種はできます。 今回の措置で次回接種を差し控えた場合、接種間隔を超えるケースが想定されますが、これについては国において検討中です。 高校1年生に対しても経過措置も含め検討されています。 3.国による再検討
多くの問題点はありますが、国において引き続き子宮頸癌予防ワクチンについて検討されることになっています。 結論がでるまで半年程度かかる見込みです。
これを受けて地方自治体およびその医師会は、ワクチン接種を希望される方へ、 副反応が起こるリスクを十分に理解した上で接種いただくよう、お願いすることになりました。
子宮頸がんの定期予防接種は原則、小学6年から高校1年の女性が対象となります。希望者については、今後も公費負担で予防接種は受けられます。 今後は副作用のリスクが解明され、接種による予防効果が大きいと判断されれば、積極推奨に戻ることもあるそうです。
「より安心して接種をしてもらうために情報を集める」との事で、接種対象の子供を持つ保護者らに冷静な対応が求められています。

投稿者 aids : 18:56 | トラックバック

『ケジラミの疎開』

30代の男性が外陰の痒みを訴えて受診してきました。
「先生! ケジラミかもしれませんから、あそこをそってしまいました」
外陰部を診ると確かに剃毛されていましたが、不完全です。
私は思わず『毛を剃らないで来ればよかったのに!』とつぶやきました。
外陰、肛門周辺、大腿部、臍部、腋窩部を丁寧に視診を行ったところ、いました、いました、ケジラミが。
肛門周辺に幼虫が1匹、大腿部の発毛部に成虫が1匹、発見。
この現象は、まさにケジラミの疎開行動です。
そもそも、疎開(そかい)とは、軍事作戦において、集団行動している兵を散らし、
攻撃目標となり難い状況を作りながら作戦行動を行なう事をいうのが元の意味だそうです。
日本においては第二次世界大戦末期に、攻撃目標となりやすい都市に住む学童、老人、女性、 又は直接攻撃目標となるような産業などを分散させ、 田舎に避難させるという政策を指す言葉として一般化しました。
私がいう、「ケジラミの疎開」とは、本来ケジラミの最も住みやすい陰毛である「毛の密林」が無くなった場合の緊急避難行動です。
ケジラミは恥丘、性器周辺の陰毛の臭いが好きで、ここに住み着きます。この部位がケジラミにとって、最も住みやすい環境と考えられます。
この部位でヒトの血液を吸い(吸血)、生活しています。そしてメスの多くは陰毛の基部に産卵します。
ヒトの血液を吸った状態のケジラミを見つけることは、成虫であれば比較的簡単ですが、 ヒトの血液を吸ってない状態のケジラミを見つけることは、難しくなります。
その理由は、ケジラミの体内にヒトの血液が貯留されていれば、虫体は赤色~茶褐色に見え、目視で確認できます。
しかし血液が貯留されていなければ、虫体の色はヒトの肌色に近く、あるいは透明感があり目視では確認できなくなります。
さて、陰毛を剃毛してしまうと、ケジラミは肛門周辺、臍部、乳輪周辺、腋窩、下肢の体毛などへ緊急避難行動を起こしてしまう可能性があります。 ですから、不完全な剃毛(毛を剃る)してしまうと、運よく、難を逃れたケジラミは、他の毛の生えている部位に移動してしまいます。 また完全な剃毛を自分自身で行うことは大変、難しいと考えます。
では、完全な剃毛をすれば良いのか?という事になりますが、完全な剃毛とは、肛門周辺、臍部、乳輪周辺、腋窩部、大腿部などの体毛など、 ケジラミが疎開できそうな場所すべてを処理することになります。 しかし、自分自身でそれを行うことは大変難しいと考えられます。
最も良い治療法は、剃毛をしないことです。ケジラミが最も好んで住みたいところに住まわせておき、そこを、ある武器で攻撃すれば最も効果的です。 ある武器とは「スミスリンLシャンプー」のことです。シャンプーですから、身体すべての毛に対応できます。
攻撃の翌日からあそこは快適になり、かつ平和になります。
現在ではスミスリンLシャンプーが最も良い治療法と考えます。
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投稿者 aids : 18:48 | トラックバック

2013年06月26日

「性感染症に関する咽頭検査・治療の重要性」

ある泌尿器科医から「淋菌感染症とクラミジア感染症の咽頭感染について教えてください」と アドバイスを頼まれました。
以下は、その時のアドバイスの内容です。
先ず、泌尿器科医にとって男性の淋菌性、クラミジア性尿道炎の最大感染要因がオーラルセックスであることは、良く知られていることです。
しかしながら、淋菌・クラミジアの咽頭感染の実態は泌尿器医といえども、あまり理解されていないと思われます。
また、口腔咽頭感染は感染部位としても、感染源としても放置できない問題です。
しかし、口腔咽頭の専門家である耳鼻咽喉科医の性感染症に対する関心度が低いのが現実であり、残念なことです。
咽頭感染を心配する患者が耳鼻科医を受診しても、検査もされず戸惑っている現象が数多く生じています。
ご承知の通り、淋菌感染症やクラミジア感染症は、生殖器だけでなく咽頭にも感染いたします。淋菌感染症においては、生殖器よりも咽頭の方が淋菌の検出率は高くでます。
一方、クラミジア感染症においては、咽頭よりも生殖器の方が検出率が高くでます。 また咽頭に感染した場合、治療においては、生殖器よりも咽頭の方が治癒までの期間が長くなると、経験的にわかっています。
そのため、性感染症の専門医であれば、性感染症と診断した症例に対しては、患者からの問診などにより咽頭感染も疑われる場合、通常よりも薬剤の投与量を多く処方するケースもあります。
その反面、性感染症に造詣が深くない医師は性器感染で咽頭感染を考慮しない場合が多く、通常の治療を実施し、性器が陰性化した段階で治癒と判断し、咽頭感染の有無を確認しないケースもあります。
現在の性行動の多様化から、性感染症が疑われた場合、咽頭の感染も念頭に入れながら、 検査ならびに治療を行うことが重要と考えます。

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投稿者 aids : 18:03 | トラックバック

2013年06月07日

 女性性器ヘルペスで尿失禁 お漏らし

女性性器ヘルペスで尿失禁お漏らし 最近、30代前半の女性が性器ヘルペスの初感染で受診してきました。
来院時、37.8℃の発熱、鼠径リンパ節有痛性腫脹、歩行障害、膀胱炎症状を認めました。
さらに外性器の局所症状として、両側の大・小陰唇、腟前庭に多数の水疱、びらんを認めました。
そこで抗ウイルス剤の内服薬としてバルトレックスを投与し、外陰部の粘膜を保護する意味で消炎用軟膏を投与しました。
その帰り道、彼女に、あるアクシデントが起きました。彼女は自分のマンションのエレベーターに乗り、7階に向かいました。
その途中、履いていたジーパンが何か濡れていることに気づきました。
さらにショックなことにエレベーターの床も濡れていました。 直ぐに自分の尿で濡れたことが、分かったのです。
幸いなことにエレベーターには、他に誰もいなかったので、急いで、エレベーターの床の清掃を行い、恥をかかずに事なきを得ました。
この現象は尿失禁です。患者本人が気づかない内に生じた尿のお漏らしです。
性器ヘルペスでの、この現象は私が知る限り、文献や資料などには記載されていません。
私は単純ヘルペスウィルスが上行性に仙骨神経根に直接進展し、限局性の髄膜脊髄炎が起き尿失禁を呈したと考えました。
一般には、女性の性器ヘルペスの初感染時にあらわれるElsberg syndromeでは排尿障害を起こします。
この病気は、馬尾症候群を呈する進行性炎症性多発神経根炎です。
尿意を感じない神経因性膀胱となり、カテーテルの挿入が必要となる場合もあります。
単純ヘルペスウィルスが上行性に仙骨神経根に直接進展し、限局性の髄膜脊髄炎が起き排尿障害などを生じます。
この女性の場合、原因(病態生理)は分かりませんが、尿失禁としてあらわれたものと考えられます。 少し難しいですね。
こんなこともあるんですね。


*馬尾症候群 脊髄の一番下から下に向かって、神経の束が伸びています。この束は、下方のいくつかの椎骨を通って、仙骨(脊椎の根元にある骨)の上まで達しています。この神経の束は、馬の尾に似た形をしているため、馬尾と呼ばれています。馬尾神経が、椎間板の破裂やヘルニア、腫瘍、膿瘍、外傷による損傷、炎症(強直性脊椎炎など)による腫れなどによって圧迫されることがあり、それによって現れる症状を、馬尾症候群といいます。

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投稿者 aids : 02:27 | トラックバック

性器ヘルペスを家族やパートナーにうつさないための注意点

「性器ヘルペスを家族やパートナーにうつさないための注意点」尾上泰彦

20代後半の女性から相談を受けました。
「先生、性器ヘルペスを家族やパートナーにうつさないための注意点を教えて下さい」 
ということで、今回は「うつさないための注意点」についてお話します。
1.患部に触った後は石鹸で手をきれいに洗いましょう。
2.バスタオルは共用しないようにしましょう。なお、洗濯・乾燥により単純ヘルペスウイルスは除去できます。
性器ヘルペスの方が入ったお風呂に浸かっても、ウイルスに感染することはまずありません。
3.お尻に症状が出ている時は、ウイルスが便座に付くことがあるので、お尻が直接便座に触れないようにするか、使用後はエタノールで消毒するとよいでしょう。
4.GHの症状が出ている間は、セックスは控えましょう。

口唇ヘルペスの症状が出ている間は、キス・オーラルセックスは控えましょう。
症状が出ていない時に、セックスをする際はコンドームを使用しましょう。

感染のリスクを下げることができます。
以上です。

ご機嫌よう!

投稿者 aids : 02:24 | トラックバック

マルホ株式会社のMR教育の所内講演会が開催され「性器ヘスペス」についてお話しをしました。

マルホ株式会社のMR教育の所内講演会が開催され、私が「性器ヘスペス」についてお話しをしました。 ≪マルホ株式会社 所内講演会≫ 日程 平成25年5月23日(木) 場所 スポーツ医科学センター(日産スタジアム内) 講演 宮本町中央診療所    院長 尾上 泰彦先生 演題 「性器ヘルペス 臨床の最前線」 主催 マルホ株式会社 MR対象の講演会です。 講演終了後、MRの方から講演内容の専門用語で「MSM」、「CSW」とは何の略かという質問が出ました。 MSM:男性同性愛者( Men who have sex with men ) CSW:性風俗産業従事者 (Commercial sex workers) 今回はここでMRについて勉強いたしましょう。 Wikipedia:ウィキペディアによりますと以下のようです。 医薬情報担当者(medical representative:MR)とは、医薬品の適正使用のため医療従事者を訪問すること等により、医薬品の品質、有効性、安全性などに関する情報の提供、収集、伝達を主な業務として行う者のことを指します。 多くのMRは製薬会社に所属し、自社の医療用医薬品情報を医師をはじめとする医療従事者に提供し、副作用情報を収集することを主な業務としています。かつてはプロパー(宣伝者という意味)と呼ばれていました。 MRは、医師・薬剤師に対して、薬の適正使用情報や副作用情報、海外での処方例や新薬の宣伝活動などを行う製薬業界での営業職にあたります。 ただし、他業界の営業職とは異なり、営業活動の中心は製品の販売促進ではなく、薬の情報提供・情報収集活動にあります。 MRには、高い倫理観に基づき、患者の立場から「薬物治療のパートナー」として、医療従事者と共に医療の一端を担い、 社会に貢献することにあることが求められています。

投稿者 aids : 02:23 | トラックバック

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