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2014年01月29日
陰嚢水腫
退職したばかりの60歳代の男性が受診してきました。「左の睾丸が腫れています。左睾丸の横に水ぶくれのようなものがあるんです」
『どのくらい前からですか』
「3ヵ月ほど前からだと思います」
診察室を暗転して陰嚢に懐中電灯をあて透光試験を行うと、明らかに光が透過し陰嚢水腫と診断できました。大きさは小鶏卵大でした。陰嚢の腫れている箇所を穿刺すると、穿刺液を約30ml採取できました。透明な淡黄色の体液でした。これは典型的は陰嚢水腫です。
今回は陰嚢水腫について少し勉強いたしましょう。
陰嚢内の、睾丸(精巣)を包んでいる膜(精巣鞘膜)から体液が過剰に分泌されることにより、鞘膜内に体液がたまり、精巣鞘膜が膨らみ、陰嚢が鶏卵大に腫れる良性の病気です。小児ではうずらの卵くらいの大きさのこともありますが、お年寄りでは拳大より大きくなることもあります。
陰嚢水腫の原因は、おもに精巣鞘膜の体液の分泌過剰ですが、新生児では、腹膜から連続する鞘状突起があって、そのために腹腔内の体液が鞘状突起内に流入し、陰嚢に水腫を形成します。多くの症例では、生後1年以内に腹膜との交通は自然閉鎖し、精巣鞘膜腔が形成されるので、1歳位までは様子をみることが良いと考えられています。
多くは無症状ですが、ときに不快感や脹れた感じを認めることもあります。 局所を触診しますと、陰嚢の表面が滑らかで、少し柔らかい感じがします。 大きさはウズラの卵大~拳大以上まで様々です。圧痛などはなく、懐中電灯で陰嚢を透かしてみると、きれいに睾丸が透けて見えます。
超音波検査を行えばもっとはっきり分かります。 注射針で内容液を穿刺し、内容液が黄色の透明であれば、陰嚢水腫と診断できます。しかしながら精巣腫瘍(悪性腫瘍)も痛みがないので、陰嚢水腫との鑑別が最も大切になります。精巣腫瘍では透光性はなく、触診すると硬く弾性があります。また副睾丸炎(精巣上体炎)、睾丸捻転症(精巣捻転症)では、激しい圧痛がありますが、透光性はありません。
陰嚢水腫の治療は一般的には、注射針による穿刺で、内容液を吸引採取します。 小児は、1~2回の穿刺吸引で多くは治癒します。 成人では、何度も穿刺吸引を繰り返しても治らないこともあります。 そのような場合は手術が必要となり精巣鞘膜を摘除いたします。
2014年01月17日
性器伝染性軟属腫(ミズイボ)
20代後半の男性が受診に来ました。「先生、性感染症になったかもしれません。性器に白いブツブツができました。尖圭コンジローマが心配です。」 診察すると陰茎に直径2~3mmの10数個の灰白色のイボが認められました。 そのうち数個には臍窩が認められ、直ぐに性器伝染性軟属腫(ミズイボ)と診断できました。 患者が心配していた尖圭コンジローマではありませんでした。
問診すると、感染機会は2カ月前で、感染源は性風俗嬢ではなく、ナンパして知り合った女性だそうです。 このミズイボをピンセットで摘まんで、一つ一つ取っていきました。
さて、性器伝染性軟属腫(ミズイボ)とはどんな病気なのか、少し勉強しましょう。 俗にミズイボと言われていますが、正式な名称は性器伝染性軟属腫です。 病原体は、ポックスウイルスの一種である伝染性軟属腫ウイルスです。つまり皮膚のウイルス感染症です。 多くは、幼児から小学生の低学年ぐらいまでの子供にみられる病気ですが、大人では性感染症(スキンシップ)として見られます。
症状は多くの場合、大きさが2~3mmぐらいまでの小さい丘疹(*)が、多発して見られます。 診断は、肉眼的所見によることが多いです。ミズイボは灰白色で少し光沢があり、半透明に見えます。 よく観察すると、真ん中がちょっとへこんで見えます。この窪みを専門用語で臍窩(さいか)と言います。
このイボを摘まみ取ってみると、中から半透明の粥状のものが出てくるので、一般的にはこの物質を確認し、伝染性軟属腫と診断します。 感染は経皮感染で、主に接触(スキンシップ)でうつりますから、掻いたりすると周りに拡がり増殖する場合があります。 潜伏期間はだいたい2~7週間ぐらい、長くても半年ぐらいまでではないかと考えられています。 伝染性軟属腫は数週間から数カ月で自然消退するものもあれば、逆に年単位で続くものもあります。 治療は、一つづつ、イボ取り専門ピンセットで摘まみ取るのが一般的です。
(*)丘疹:直径1cm以下の皮膚の隆起。発疹の分類の一つ。
2014年01月01日
「性病と性感染症とはどう違うの?」
ある泌尿器科の先生から次のような質問がありました。「性病と性感染症とはどう違うのですか?教えてください」
それでは今回は少し、性感染症などの言葉について勉強しましょう。
一般には“性病”、“性行為感染症”そして“性感染症”は同じような意味で用いられていました。 しかし最近では専門家などの間では“性感染症”が多く使用されるようになりました。 それに伴って一般の方でも“性感染症”を使うような傾向がみられます。喜ばしいことです。 それに反してドクターでも“性病”を用いている方がいます。少し悲しいですことですね。
“性感染症”とは性行為またはそれに類似する行為で感染する病気の総称です。 日本では性にまつわる病気の名称は、かつては花柳(かりゅう)病と言われ男の遊び人の病気とされていましたが、 昭和23年からは“性病”と称され、昭和63年からは“性感染症”と呼称が変遷してきました。 世界的にはWHO(世界保健機構)は“VD=venereal diseases”(性病)を昭和50年に改めて“STD=sexually transmitted diseases”(性行為感染症)を提唱し、 さらには平成10年、性にまつわる感染症の概念を拡大し“STI=sexually transmitted infections”(性感染症)を推奨し現在に至っています。
法的には1998年(平成10年)に「伝染病予防法」、「性病予防法」、「エイズ予防法」が廃止され、新しく「感染症法」【正式には「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」】に吸収され統合されました。この時点で法的には「性病」という言葉がなくなりました。 旧「性病予防法」では『性病』とは、梅毒、淋病、軟性下疳及び鼠径リンパ肉芽種症の四つの病名をさしていました。
現在、蔓延しているエイズ(HIV感染症)、クラミジア感染症、性器ヘルペス、尖圭コンジローマ、B型肝炎、C型肝炎などの多数の病気は旧「性病予防法」のいう『性病』の中に入っていません。以上のことから「性病」と「性感染症」とは全く違うものなのです。
2008年(平成20年)12月から日本性感染症学会では「性感染症」の名称を使用しており、「性病」という用語は使用しないように啓蒙・指導しています。 つまり「性病」という言葉はすでに、オヤジ言葉となり死語となっています。 これからは「性感染症」を使ってください。