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第44回 東京泌尿器科医会学術集会
第44回 東京泌尿器科医会学術集会で梅毒の講演をいたしました。
その抄録が東京泌尿器科医会ニュース No.57に
掲載されましたので報告いたします。
日時:2017年2月25日(土)
場所:京王プラザホテル 本館 4階「花」
特別講演:
『泌尿器科医のためのアトラスで見る これが梅毒だ』
宮本町中央診療所 院長 尾上 泰彦
「梅毒」という病名の由来は第2期の赤い丘疹が楊梅(ヤマモモ)の果実に似ているので
楊梅瘡(ようばいそう)と呼ばれていた。いつの間にか「楊」の字が取れて、
次第に梅瘡⇒黴毒⇒梅毒と変化したと言われている。
また、梅毒はクリストファー・コロンブス一行が1492年、新大陸の発見と共に
❝原住民の風土病❞をヨーロッパに持ち帰ったとされ、「悪魔のお土産」といわれた。
その後、爆発的に全世界に拡がり、日本への伝来は永正九年(1512年)で、
約20年足らずで日本にやってきた。恐るべし、セックスのパワー。
梅毒のヨーロッパ伝播の通説である。
本講演では、私が経験した梅毒症例を中心に臨床写真を提示しながら
視診技術のポイントについて述べる。
ご存知の通り「今や、梅毒はパンデミック状態」であり、 大きな社会問題になっている。
忘れられていた梅毒。昔の病気と思われていた梅毒。若い医師が見たことがない梅毒。
そういう意味では再興感染症でもある。
臨床医は忙しい。多くの医師は届けない。届け出は氷山の一角。
梅毒は全数報告で、どんな医師でも「梅毒」と診断したら
都道府県知事に7日以内に届け出る義務がある。
それでも梅毒は2011年以降、大都市を中心に徐々に増加し、現在、
アウトブレイクしている。
それでは何故、梅毒が増加しているのか?
何故、この5年間で梅毒が急増したのか?
しかも、なぜ、若い女性に急増しているのか。
確かに、先天梅毒児も毎年増加傾向を示し、胎児感染で重い障害の恐れもあり、
社会的に危惧されている。
疫学調査によると、年齢群別報告数の男性のピークは 20~40歳代である。
それに比して、何故か、女性のピークは20代前半の20~24歳にある。
その原因、理由はわからない。 しかも、この謎に迫る疫学的調査は、
内容があまりにもプライベートでプライバシーにかかわるため調査の仕様がない。
日本人の性行動様式が急に変わることは考え難い。
しかし、若い20代前半の女性に急増している。
急増の原因は、内的因子では考え難く、外的因子も考えなければならない。
一説に、2016年外国人旅行者が、初めて2400万人を超えた。
中国などアジア地域の旅行者が大幅に増加した。これが原因の一因なのか。
日本政府観光局の報告によると来日する中国人は、2008年に初めて
100万人を突破し、徐々に増加し、2016年には637万人以上と急伸している。
この外的要因が原因とは、根拠がないためはっきりとは言えないが、
一因の可能性もある。
中国衛生部が発表した「全国法定伝染病疫情状況」によると、
2013年度の梅毒感染者数は406,772人で、
これは15年前の10倍以上とのことである。
また、中国国家衛生・計画出産委員会HPによると、
2015年のみの中国の梅毒患者数は433,974人
(参考:2015年の日本の患者数は2,698人)である。
つまり、中国における梅毒患者数は日本をはるかに上回る増加をみせている。
中国の総人口は日本の11倍以上あるが、梅毒患者数は日本の160倍超というから、
梅毒の急伸状態には驚きである。
こうした経路で日本の若い女性に梅毒患者が増え、
日本での感染が増えたという可能性は考えられる。
梅毒に国境はないともいえる。
梅毒の病因、分類、臨床症状
(第1期:初期硬結、硬性下疳、鼠径部リンパ節無痛性腫脹)、(図1.図2.)
第2期(バラ疹、梅毒性乾癬、脱毛、扁平コンジローマ、口腔咽頭粘膜斑など)
第3期、第4期の臨床像、悪性梅毒。
HIV感染症との関係。
眼科領域の梅毒。輸入感染症である軟性下疳の臨床像。
梅毒の診断・検査、治療、臨床医の落とし穴。
そして梅毒の感染予防の基本。
これらの臨床現場のアトラスを提示しながら紹介・概説した。
図1.初期硬結
図2.硬性下疳
情報交換会にての写真
情報交換会にて
情報交換会にて
「プライベートケアクリニック東京」のオープン 5月15日
TENGA Healthcare Blogに「プライベートケアクリニック東京」のオープンが紹介され掲載されましたので報告いたします。Arisa Nakanoのレポートです。
TENGA Healthcare Blog May 1
新宿に「性感染症専門医療機関」がオープン!
皆さま、こんにちは!
もうすぐゴールデンウィークですね!
楽しい計画は立てられましたでしょうか?
今年のゴールデンウィークは、お弁当作ってピクニックにでも出かけてみようかと、
とりあえず予定を立ててみた中野です。
世間で流行りのおしゃピクとやらは凄いですね。
実際に出くわすと凝視してしまうことでしょう。
突然ですが、皆さんは性感染症に罹ったことがありますか?
「無い」と答える方でも、検査をしていない限り、本当に大丈夫なのかは分かりません。
現在の性行為の有無に限らず、今までに一度でも性行為のあった方は一度検査に
行ってみることをオススメします。
※各保健所で無料検査もしています。全ての性感染症ではありませんが、
各保健所ごとに検査できる項目が異なるので、検査したい項目のある保健所を調べてみてください。
性感染症の中には、無症状のものもあるため、自分自身の判断に任せてはなりません。
一見、無症状でも着々と進行していっているのです。
パートナーに感染する、不妊症になる、子どもに感染する、
他のHIVにかかるリスクが高まるなどの可能性があります。
パートナーと性行為をする前に、お互いが性感染症検査を受けておくといいですね。
心配な方、不安な方は是非、適切な検査を受けて、不安を取り除きましょう!
さて、検査に踏み切れない方に朗報です。
5月15日(月)東京都の新宿に…「性感染症専門医療機関」がオープンします!!
JR新宿駅の西口から徒歩で5分足らずの場所ですので、雨の日でも行きやすいです。
クリニックの名称は、「プライベートケアクリニック東京」。
名誉院長は、TENGAヘルスケアのアドバイザーでもある尾上泰彦先生です。
尾上先生からは、『梅毒』について教えていただく機会が度々ありました。
ニュースで取り上げられるより前から警告されておりましたが、ここ1年あたりでようやく
「梅毒急増」の文字がニュースで度々取り上げられるようになりました。
日本の梅毒患者は、この5年間で5倍に急増しており、東京の若い女性に限っては、
なんと、この5年間で25倍に激増したそうです。真に憂うべき状況です。
疫学的調査が行われていないので、その原因は明らかになっておりません。
●この「プライベートケアクリニック東京」の尾上先生は、
「新宿の町に限定すると、梅毒患者数は加速され、想像を超えるものとなる。
このクリニックが、少しでも梅毒患者の減少に寄与できれば」と、仰っておりました。
また、このクリニックは最も患者数の多いクラミジア感染症をはじめとして、淋菌感染症、性器ヘルペス、尖圭コンジローマ、口腔咽頭感染、HIV感染症など性感染症全般に熱心に取り組んでいくそうです。
性感染症の専門医とは、心強いですね!
性器も身体の大事な一部です。目が痒い、足が痛いから病院に行くのと同じこと。
性器に何か違和感がある、不安なことがある、そういった際には、まず病院です。
性感染症は、オーラルセックスでも粘膜接触により、口腔感染もします。
性器に異常がなくても、口腔内に異常ありということもあります。
不安や心配を抱えて過ごすよりも、まず病院に行って、診察や検査を受けてみましょう。
何かあれば、そこは病院ですから、治療などの対処をしてくださいます。
何も無ければ、今までの不安や心配がなくなり、安心して過ごせます。行って損なし!
ではでは、皆さん素敵な週末を!
シンプルで綺麗な受付。院内は優しいナチュラルウッドの色合いで落ち着いた雰囲気です。
https://medium.com/@arisanakano/%E6%96%B0%E5%AE%BF%E3%81%AB-%E6%80%A7%E6%84%9F%E6%9F%93%E7%97%87%E5%B0%82%E9%96%80%E5%8C%BB%E7%99%82%E6%A9%9F%E9%96%A2-%E3%81%8C%E3%82%AA%E3%83%BC%E3%83%97%E3%83%B3-4a3a6e550fc0
レポートの原本は上記で見てください。
講演「目で見る これが梅毒だ」(岡山)
学会報告です。2017年1月14日 岡山コンベンションセンターで私は特別講演で招かれました。演題は「目で見る これが梅毒だ」です。
座長は中国・四国支部会長の岸本寿男先生です。
当日は日本中が寒気に覆われて、大雪注意報がでていましたので、新幹線が動くか、
無事に着くか心配していましたが、約30分遅れで岡山に無事到着できました。
途中、彦根あたりはかなり雪が降っており、車窓から雪景色を楽しみました。
①雪の降る中、岡山へ無事到着!
岸本寿男先生(岡山県環境保健センター所長)は2016年12月3日(土)・4日(日)に
開催されました日本性感染症学会 第29回学術大会の会長を務められました。
会場は岡山コンベンションセンターでした。
同時に December 1[Thu.]‐3[Sat.]2016
19th IUSTI ASIA‐PACIFIC CONFERENCE
がOkayama Convention Center
でJointoされました。
岸本寿男先生、大変お疲れ様でした。
また先生の素晴らしい統率力には感服いたしました。
②岸本寿男先生、大変お疲れ様でした。
私の特別講演の座長は
岸本寿男先生(岡山県環境保健センター所長)です。
③特別講演:演題:「目で見る これが梅毒だ」
私の特別講演の演題は「目で見る これが梅毒だ」です。
約90分の講演となりました。
梅毒患者はこの5年間で約5倍と激増しています。
④梅毒患者はこの5年間で約5倍と激増
講演内容は以下の如くです。
疫学的調査の報告。
梅毒が何故、急に増加したのか。
梅毒トレポネーマの特徴。
梅毒の分類。
第1期 顕症梅毒の症状。
初期硬結。
硬性下疳。
無痛性横痃。
性器外硬性下疳。
鑑別診断。
視診技術。
⑤参考症例:冠状溝に発症した硬性下疳
第2期 皮膚症状:バラ疹、乾癬、脱毛、
扁平コンジローマ、口腔咽頭粘膜斑。
第3期 結節性梅毒疹、ゴム腫。
第4期 神経梅毒。
悪性梅毒。
眼科領域の梅毒。
軟性下疳。
⑥梅毒は著名人のサロン文化の中で育まれた。
梅毒の診断・検査。
梅毒の治療。治療ガイドライン。
ヤーリッシュ・ヘルクスハイマー反応。
治療の問題点。
HIV患者の梅毒の治療。
臨床医の落とし穴。
梅毒の予防。
⑦梅毒予防の基本
⑧講演風景
講演終了後、岸本寿男先生の案内で素晴らしい「鮨や」へ!
その後、先生の遊び場のジャズピアニストやベース、ボーカリストのいる
ジャズ喫茶へ!
⑨岸本寿男先生のみごとな尺八演奏!
お陰さまで素晴らしい岡山でした。
岸本寿男先生に感謝!
『近年、川崎市において分離されたNeisseria gonorrhoeae の遺伝学的性質と細菌学的背景について』
今回は平成26年12月6日(土)に神戸国際会議場で開催されました日本性感染症学会 第27回学術大会で当院の研究生が一般演題で発表しましたのでそれを報告いたします。
研究生は 東邦大学大学院看護学科研究科 感染制御学 井村 幸恵 です。
以下に発表要旨を示します。
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O-38
『近年、川崎市において分離されたNeisseria gonorrhoeae の遺伝学的性質と細菌学的背景について』
○東邦大学大学院看護学科研究科 感染制御学 井村 幸恵、金山 明子、小林 寅喆
宮本町中央診療所 尾上 泰彦
【目的】
過去に我々は川崎市で淋菌感染症が疑われた患者の生殖器および咽頭より分離したN. gonorrhoeae の感染経路・背景および抗菌薬感受性について報告した。
今回はこれら菌株のSequence Type(ST) と細菌学的性状について検討を行った。
【対象と方法】
2012年3月~2014年3月に淋菌感染症の疑いで来院した患者生殖器および咽頭より分離した
N.gonorrhoeae 137株を対象とした。
分離したN.gonorrhoeaeについてNG-MAST法により遺伝学的解析を行い、患者背景および由来について調査し、CLSIが推奨する寒天平板希釈法に準じPCG、CTRX,AZM、SPCM,TC,CPFXのMICを測定した。
【結果と考察】
生殖器および咽頭より分離されたN.gonorrhoeae は男性由来93株(68%)、女性由来は44株(32%)であった。
このうち咽頭および生殖器同時検出例の割合は男性および女性それぞれ12%および10%と同程度であった。
分離株のうちST分類が可能であった株は110株で、最も多く分離されたSTIは6771で12株(11%)、次いで1407の9株(8%)であった。
ST6771に分類された株は1株を除き測定した抗菌薬に感受性を示した。
ST1407はCTRXおよびSPCMを除きほとんどの抗菌薬に耐性を示す多剤耐性株で、いずれも男性生殖器からの由来株であった。
CTRXに対する非感受性株は見られなかったが、0.25を示す株が7株認められそのうち6株は男性生殖器由来であった。
咽頭および生殖器同時検出例において両者のPFGEパターンはほとんどが一致したが、STは異なる株が存在した。
今回検討した地域において分離された N.gonorrhoeaeはST6771に分類される感受性株が多かったが、ST1407や他の多剤耐性型も分布し、多様な株が存在することが明らかとなった。
モ-ニングセミナ- 「淋菌・クラミジア感染症 再感染防止のために」のDVD完成
日本性感染症学会 第27回学術大会
モ-ニングセミナ-の講演中DVDができあがりましたので報告いたします。
日本性感染症学会 第27回学術大会 モ-ニングセミナ-1
日時:2014年12月7日(日)8:00~8:50
会場:神戸国際会議場 3F国際会議室 第2会場
演題:淋菌・クラミジア感染症 再感染防止のために
座長:帝京科学大学 看護学科教授 齋藤益子先生
演者:宮本町中央診療所 院長 尾上泰彦先生
共催:日本性感染症学会第27回学術大会
ロシュ・ダイアグノスティックス株式会社
残念ながらこのDVDは非売品・配布厳禁です。
講演:『目で見る これが性感染症だ!』
私の講演会がありましたので報告いたします。
内容は以下の如くです。
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日本大学医学部泌尿器科同門会総会
日時:平成26年12月20日(土)16:00~
会場:御茶ノ水ソラシティーカンファレンス1FルームA
●特別講演 日本大学医学部兼任講師
宮本町中央診療所 院長 尾上泰彦先生
座長:同門会会長 熊谷振作先生
演題:『目で見る これが性感染症だ!』
STI(性感染症)の臨床写真を提示し、視診技術についてのべました。
講演終了後、活発な質疑応答が行われ大変、有意義な講演会となりました。
その後、忘年懇親会が「銀座アスタ お茶の水賓館」で和やかに行われました。
出席者は現役、OBを含めて100名近くと盛況でした。
座長:同門会会長 熊谷振作先生
第101回日本泌尿器科学会総会
第101回日本泌尿器科学会総会
4月25日(木)札幌にてシンポジウム「新しい治療戦略シリーズ 性感染症」のシンポジストに田中 正利(福岡大学)先生よりを要請され学会に参加してきた。私に与えらたテーマは「尖圭コンジローマ」であった。シンポジウムは盛況であり活発な議論が交わされた。
シンポジウム4 「新しい治療戦略シリーズ 性感染症」
(16:00~18:00)
座長:田中 正利(福岡大学) ・山本 新吾(兵庫医科大学)
1.淋菌感染症 ―現状と治療戦略― 安田 満(岐阜大学)
2.クラミジア 濱砂 良一(産業医科大学)
3.性器ヘルペスの治療 本田まりこ
(東京慈恵会医科大学
葛飾医療センター 皮膚科)
4.尖圭コンジローマの治療戦略 尾上泰彦 (宮本町中央診療所)
以下に私の講演要旨を示す。
演題名: 『尖圭コンジローマの治療戦略 』
講演要旨:尖圭コンジローマ(condyloma acuminatum:CA)は、性器へのヒトパピローマウイルス
(human papillomavirus:HPV)感染症で、大部分が性行為あるいはその類似行為で感染する。
HPVは、接触により、皮膚や粘膜の微小な傷から侵入し、基底細胞を含む分裂可能な細胞に感染する。
感染後、視診で観察できるまでに3週~8か月(平均2.8か月)を要するので、感染機会を特定できないことも多い。
原因となるのはHPV6型あるいは11型である。
感染部位は男性では、陰茎の亀頭、冠状溝、包皮内外板、陰嚢、女性では、大小陰唇、会陰、腟前庭、腟、子宮頸部、また、男女の肛囲、肛門内や尿道口に好発する。
乳頭状、鶏冠状の外観を呈し、淡紅色ないし褐色で、ときに巨大化する。
肛門内のCAは、同性愛者の肛門性交によることが多い。
一般に自覚症状はないが、大きさや発生部位などにより掻痒がみられることもある。
診断は臨床症状により可能であるが、診断が困難な場合は生検して組織診断を行う。
病原体を検出するには核酸検出法があり、その方法として、Hybrid Capture(HCⅡ)法とPCR(polymerase chain reaction)法がある。
治療については、日本性感染症学会の診断・治療ガイドライン(2011年)の「ファーストライン」ではイミキモド5%クリーム(ベセルナクリーム5%)の外用をはじめ、凍結療法(液体窒素)、80~90%の三塩化酢酸または二塩化酢酸などの外用、外科的切除(電気メスによる焼灼・ハサミで切除)などが推奨されている。
「セカンドライン」ではレーザー蒸散(炭酸ガスやホルミウムレーザー)、インターフェロンの局所注射などが挙げられている。
CA治療のゴールドスタンダードはあるが、現在すべてのCAを確実に治療できる絶対的な治療法はなく、どの治療法でもある頻度で再発する。
CAの治療は正に再発との戦いであり、再発をいかにコントロールできるかが治療の奏功を左右する。
完全に治癒しない場合には、治療法を見直したり、種々の方法を組み合わせて治療する。
治癒判定は臨床的には視診で行うが、最低3か月は再発がないことを確認する必要がある。
予防については、コンドームの使用は大切であるが、広範囲に感染がある場合には完全に予防することはできない。
既にCAに対して予防効果が期待できる4価(6,11,16,18型)HPVワクチン(Gardasil)が本邦でも発売されている。
4価HPVワクチンを若年女性に広く接種してきたオーストラリアでは、CAが減少したことが報告されており、またそのパートナーである男性のCAも減少傾向のあることは興味深い現象である。
第77回日本泌尿器科学会東部総会のご報告
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第77回日本泌尿器科学会東部総会
2012年10月18日(木)
会場:東京ドームホテル
シンポジウム“変貌する尿道炎”座長:高橋聡先生 清田浩先生
【演題】蔓延する淋菌・クラミジアの咽頭感染 宮本町中央診療所 尾上泰彦
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①第77回 日本泌尿器科学会東部総会
以下、講演論旨
泌尿器科医にとって男性の淋菌性、クラミジア性尿道炎の最大感染要因はオーラルセックスであることは周知の事実である。
しかしながら淋菌性・クラミジア性咽頭炎の実態は知られていない。これに泌尿器科医が如何に対応すべきか検討を加えた。
淋菌・クラミジア咽頭感染の特徴、臨床例、検査法、検体採取法の実際、その成績および今後の課題について述べる。
淋菌性・クラミジア性咽頭炎は他覚的・自覚的な咽頭所見をほとんど認めないことが特徴である。
淋菌・クラミジアの尿道炎を認めれば、そのパートナーの口腔咽頭に淋菌・クラミジアが存在している可能性がある。
咽頭の淋菌検査法としては淋菌の分離培養がゴールドスタンダードであるが、現在あまり用いられていない。
PCR(核酸増幅法)は口腔内の非病原性Neisserria属との交差反応があるため口腔の淋菌検査に適さない。
現在、淋菌・クラミジアの検査法として核酸増幅法のSDA法,TMA法が保険適用である。
検体採取法としてはスワブ法、うがい液法があり、うがい液法の方が淋菌、クラミジアいずれも陽性率がやや高い。
子宮頸管ではクラミジア陽性率が淋菌陽性率より高い。しかし咽頭では淋菌陽性率がクラミジアより高い。
今後の課題としては咽頭淋菌・クラミジア感染の病態解明、無症候性感染の増加に対するスクリーニング法の確立、耳鼻咽喉科医のSTIへの参加、咽頭感染の疫学調査、咽頭感染症に関する保険診療の環境整備などがある。
アトラスでみる これが性感染症だ
私の人生で始めての、そして最後の教育講演になると思います。大変栄えある講演だと認識し、この準備に約半年の情熱を注ぎました。
大スクリーン2画面のプレゼンテーション、参加者約300名です。
このプログラムに参加しますと、日本性感染症学会の認定医のポイントを10単位取得できます。
緊張で始まり、リラックスして終わることができました。
このような機会をいただきました、本田まりこ学会会長と座長の保田先生に感謝申し上げます。
ありがとうございました。
【教育講演】
日本性感染症学会 第24回学術大会(都市センターホテル)
12月3日(土) 卒後・生涯学習プログラム
座長:保田仁介 松下記念病院産婦人科
<講演1>『アトラスでみる これが性感染症だ』
<講師>宮本町中央診療所 尾上泰彦
【講演要旨】
『アトラスでみる これが性感染症だ』
性感染症は異性間あるいは同性間で性の営み、性行為があって初めて生じるという、大変人間性豊かな病気であり、誰もが感染しえる疾患群である。
また“性感染症を疑うポイント?”とは本人が、何時、何処で、誰と、何をしたのか、どんな事象が起きたのかの検証ともいえる。
外陰部はパートナーと濃密に接触する性行為の主役を果たす性器としての特異性とともに、皮膚粘膜、特に排泄口への移行部、各種の付属器官が豊富、皮膚が菲薄で柔軟であるなどの特性があり性感染症の好発部位となりえる。
性感染症の臨床現場においては、教科書でみるような「これが性感染症だ」という典型的な症例ばかりではない。
そのため,性感染症の診断には問診技術と視診技術が重要となるが、今回は特に視診技術に関して述べる。
私が経験しえたクラミジア感染症、淋菌感染症、性器ヘルペス、梅毒、尖圭コンジローマ、ケジラミ症、性器伝染性軟属腫、腟トリコモナス症、性器カンジダ症、軟性下疳などの性感染症症例を中心に臨床写真を提示しながら視診技術のポイントについて言及し 「これが性感染症だ」の実態に迫る。
多くが演者の臨床経験に基づいた(エビデンスに基づかない)内容であるが、パンツの中に隠された、驚くような性感染症の情報をご覧いただき、実際の診療に役立てていただければ幸いである。
<<第24回 北九州STI研究会>>
日時:平成23年11月17日(木)
場所:リーガロイヤルホテル小倉 3階 エンパイア
【特別講演】
座長:産業医科大学 副学長・病院長・泌尿器科教授 松本 哲朗先生
演題:『アトラスでみる 性器ヘルペス』
演者:宮本町中央診療所 院長 尾上泰彦 先生
【講演要旨】
(1)STI(性感染症)の特徴
(2)性器ヘルペス
*性器ヘルペス初感染のメカニズム、再発のメカニズム、検査法、実際の臨床症例
*特に女性の性器ヘルペスは深刻な疾患である。女性の方が罹患率が高い 臨床症状が激しく、発熱、疼痛、膀胱炎症状、歩行障害、鼠径部リンパ節有痛性腫脹などを認める。
排尿障害、便秘などの末梢神経麻痺を伴うこともある。
ときに強い頭痛、項部硬直などの髄膜刺激症状を伴う 頻繁に再発する場合は、心身にストレスを与える。
Elsberg syndromeといって、馬尾症候群を呈する進行性炎症性多発神経根炎を生じ、 尿意を感じない神経因性膀胱となり、カテーテルの挿入が必要となるケースもある。HSVが上行性に仙骨神経根に直接進展し、限局性の髄膜脊髄炎が起き排尿障害などを生じる。
*大事なポイントとして性器ヘルペスの初感染は性感染症であるが、再発は本人にとっては性感染症ではないが、HSVを排泄するためパートナーにとっては性感染症になりえる。
*また治療に関しては神経のウイルス感染症であるから外用薬ではなく内服薬が是非、必要であることを強調した。
(3)鑑別診断:梅毒、帯状疱疹、ベーチェット病、固定薬疹などについて述べた。
第2回 日本性感染症学会関東甲信越支部総会
9月4日(日)に講演会がありましたので下記にご報告いたします。第2回 日本性感染症学会関東甲信越支部総会
日時:平成23年9月4日(日)
会場:東京慈恵会医科大学大学1号館3階講堂
学術講演2
演題:「梅毒の臨床 最前線」
宮本町中央診療所 尾上 泰彦(おのえ やすひこ)
略歴:
昭和44年 日本大学医学部卒業 泌尿器科学教室入局
昭和56年 宮本町中央診療所 開設
・日本大学泌尿器科学非常勤講師
・日本性感染症学会 代議員・認定医
・性の健康医学財団 評議員
・神奈川性感染症学会 幹事
・川崎STI研究会 代表世話人 抄録
梅毒というと、過去の病気である、AIDSが出現して以来忘れられている、全数報告であるのに医師が届け出ていない、感染しても症状がでない事が多い、検査結果はどう読むのか分からない、治療はどうするのか、抗生物質天国の日本では知らないうちに治療されているのではなどのイメージがある。
また最近は皮疹を主訴に受診してくる顕症梅毒患者は少ない。
むしろ献血、集団検診、妊婦健診、入院や術前などの血液検査で偶然発見されることが多い。
その多くは陳旧性で梅毒治癒後の抗体保有者である。
従って、スクリーニング検査で陽性を呈した場合はSTSとTPHAの定量検査により、 陳旧性梅毒か無症候梅毒かを見極めることが必要である。
また、わが国では、2010年の感染症発生動向調査によると、梅毒の総報告数は2008年をピークに減少に転じているが、性行為によるHIV感染は増加している。
梅毒を診断した際には、HIV感染の有無を検査することが推奨される。
今回の講演では当院で経験した顕症梅毒の第1期梅毒、第2期梅毒の臨床症例などを中心に診断、治療、治癒判定などについて解説する。
さらに会員の先生方に検査結果の読み方、治癒判定、治療法などについてご意見を伺いたい。
第1回日本性感染症学会関東甲信越支部総会・学術講演会
平成22年9月26日(日) 東京慈恵会医科大学1号館3階講堂において、日本性感染症学会 第1回関東甲信越総会にて学術講演をする機会に恵まれました。 演題は『性感染症の咽頭感染をめぐる最新情報』です。 以下は、その際の講演要旨です。学術講演1.『性感染症の咽頭感染をめぐる最新情報』
宮本町中央診療所 尾上泰彦
『1.はじめに』
臨床医にとって男性の淋菌性、クラミジア性尿道炎の最大感染要因はオーラルセックスであることは周知の事実である。しかしながら、淋菌性・クラミジア性咽頭炎の実態はあまり知られていない。また、口腔咽頭の専門家である耳鼻咽喉科医の性感染症に対する関心度が低いのが現実である。この講演では淋菌・クラミジア感染症の疫学、特徴、咽頭炎の特徴、実際の臨床例、咽頭の検査法、検体採取法の実際、その成績および今後の課題などについて述べる。
『2.淋菌・クラミジア感染症の疫学』
2008年感染症発生動向調査による性感染症の報告数を見ると、第1位はクラミジア感染症、第2位は淋菌感染症である。男性で最も多いのはクラミジア感染症、次いで淋菌感染症である.女性で最も多いのはクラミジア感染症で報告数は男性の2倍以上ある。それに反し淋菌感染症はなぜか男性の1/3以下と少ない。年齢別ではクラミジア、淋菌感染症は男女とも20歳代がピークで女性の方が低年齢化傾向にある。
『3.生殖器淋菌・クラミジア感染症の特徴』
男性の淋菌性尿道は感染機会から約2~7日間の後に急に症状がでる。排尿痛と外尿道口からの黄色膿の排出が特徴である。クラミジア性尿道炎は感染機会から1~3週間の後に外尿道口より漿液性の分泌物を認め、尿道のかゆみ、違和感、不快感などを認める。しかし約50%が無症状である。
女性の淋菌性、クラミジア性子宮頸管炎の約70~80%は無症状である。症状がでると、帯下の増加、黄色帯下、不正出血、排尿痛、下腹部痛、性交痛などを認める。
『4. 淋菌・クラミジアの咽頭感染の特徴』
淋菌性・クラミジア性咽頭炎は他覚的(咽頭の発赤、腫脹など)・自覚的(咽頭の疼痛、イガイガ感など)な咽頭所見をほとんど認めないことが特徴である。生殖器に淋菌性・クラミジア性感染症を認めれば、そのパ-トナ-の口腔咽頭に知らずして淋菌・クラミジアが存在している可能性がある.
『5.淋菌・クラミジア咽頭感染の最大感染要因』
最大感染要因はオーラルセックスの日常化である。
2001年の性行動の全国調査では過去1年間にオーラルセックスをした人は55歳以上では約20~40%、18~24歳では約80%であった。このことは若者ではオーラルセックスが普通の性行動の一つであることを現している
『6. 男性尿道炎の原因菌別の性交形態』
2001年福岡市STD研究会の調査によると、性交形態別に淋菌:クラミジアの原因菌を比較すると腟性交のみでは23.8%:47.9%、オーラルセックスのみでは43.9%:21.0%、両方をした者では32.3%:31.1%であった。このことより淋菌性尿道炎の原因はオーラルセックスが多く、クラミジア性尿道炎の原因は腟性交が多いことがわかる。
『7.生殖器淋菌陽性者に占める咽頭淋菌感染者の割合』
2009年松本哲朗の報告によれば男性は46例中5例(10.9%)、一般女性は73例中43例(58.9%)、CSW(性風俗従事者)は7例中4例(57.1%)であった。
このことより咽頭淋菌感染者は男性より女性に多い。またCSWと一般女性とは同じ程度であり、オーラルセックスの日常化が進んでいることをあらわしている。
『8.診断』
咽頭の淋菌・クラミジア検査法
咽頭の淋菌検査法としては淋菌の培養がゴールドスタンダードであるが、現在あまり用いられていない。PCR(核酸増幅法)は口腔内の非病原性Neisserri属との交差反応があるため咽頭の淋菌検査に適さない。現在、咽頭の淋菌・クラミジア検査法としては核酸増幅法のSDA法、TMA法が保険適用になっている。
検体採取法
検体採取法としてはスワブ法、うがい液法がある。
スワブの狙い目は咽頭後壁の上半分がよい。下半分は咽頭反射が強く、患者に負担がかかる。慣れてくれば扁桃陰窩からの採取も可能である。うがい液法は0.9%生食水15mlで顔を上に向けて「ガラガラうがい」を約20秒行う。スワブより患者負担が少ない。検査手技が簡単。口腔咽頭全体の粘膜上皮と粘膜付着物を採取可能である。
SDA(strand displacement amplification)法による咽頭うがい液・スワブのクラミジア・淋菌検査陽性率
主にCSW 278例に行った成績(17~55歳:平均30.0歳)
淋菌検査(SDA)はうがい液法が11.2%、スワブ法が8.6%。
クラミジア検査(SDA)はうがい液法が5.8%、スワブ法が3.0%。
クラミジア検査(PCR)はうがい液法が6.1%、スワブ法が4.5%。
うがい液法の方がクラミジア、淋菌いずれも陽性率は高かった。
検査成績の特徴
①淋菌・クラミジアに対して特異性の高い核酸増幅法が開発され、咽頭における正確な遺伝子診断が可能になった。
②淋菌の生殖器感染者における咽頭の陽性率は男性26.9%、女性31.6%
③クラミジアの生殖器感染者における咽頭の陽性率は男女共、約30%
④男性は性器の淋菌陽性率が咽頭より高い.
⑤女性は咽頭の淋菌陽性率が性器より高い.
⑥子宮頸管は淋菌よりクラミジアの陽性率が高い.
⑦女性咽頭はクラミジアより淋菌の陽性率が高い.
⑧咽頭検査の陽性率はスワブ法よりうがい液法の方がやや高い.
『9.治療』
治療は日本性感染症学会 診断・治療ガイドラインに沿って行なう。
淋菌性咽頭炎の治療
推奨ランクA:セフトリアキソン(CTRX):静注 1.0g 単回投与
推奨ランクB:セフォジジム(CDZW): 静注 1.0g 単回投与
または2.0g×1~2回、1~3日間
スペクチノマイシン(SPCM)は効果が劣るため使用すべきでない。
高度耐性菌が存在するため内服薬は推奨されない。
2009年より新規抗菌薬としてアジスロマイシン(AZM)ドライシロップ2g(ジスロマックSR)が使用可能となった。
クラミジア性咽頭炎の治療
アジスロマイシン 1日 1000mg×1 1日間
クラリスロマイシン 1日 200mg×2 7日間
ミノサイクリン 1日 100mg×2 7日間
ドキシサイクリン 1日 100mg×2 7日間
レボフロキサシン 1日 500mg×1 7日間
トスフロキサシン 1日 150mg×2 7日間
咽頭感染は生殖器感染よりも治療に時間がかかると報告されている。
2009年よりアジスロマイシン2,000mgドライシロップが使用可能となったが、国内の臨床治験は行われていない。
『10.今後の課題』
・咽頭淋菌・クラミジア感染の病態の解明
・無症候性感染の増加に対するスクリーニング方法の確立
・耳鼻咽喉科医のSTIへの積極的参加
・咽頭感染の疫学調査
・咽頭感染症に関する保険診療の環境整備など。
『11.最後に』
若者の間でオーラルセックスが日常化している現在、口腔・咽頭は「性感染の温床」と化している。困難ではあろうが、もし口腔・咽頭の性感染症をコントロールできれば、STI全般が激減することが予想される。また耳鼻咽喉科医のSTIへの積極的参加が望まれる。
講演ではクラミジア、淋菌の咽頭感染の臨床症例写真を提示いたします。
神奈川性感染症学会報告その2
2008年3月8日(土)ワークピア横浜で第8回神奈川性感染症学会が開催されました。その中でイブニングセミナーが印象に残りましたので報告いたします。
講演演題 『性器ヘルペスの病態と治療』
講師 安元慎一郎先生(久留米大学皮膚科准教授)
【講演要旨】
性器ヘルペスの最も大きな特徴として、個人によってはHSV-2型による再発病変が繰り返し生じることと臨床的な病変がないときにも粘膜部からウイルスが排泄される無症候性排泄が起こっていることがあげられる。
現在のところ、感染防御に有効なワクチンは開発されておらず、よって個人レベルでの性器ヘルペスに対する知識の普及および予防行動と再発抑制療法がその伝播を予防する手段と考えられる。
再発抑制療法では、開始前にHSV-2型による再発性性器ヘルペスであることを確認するとともに、抑制療法中のコンプライアンスの維持、抑制療法終了後の再発頻度のモニターなどに留意しながら実施することが重要と考えられる。
神奈川性感染症学会報告
2008年3月8日(土) ワークピア横浜で第8回神奈川性感染症学会が開催されました。その中で、イブニングセミナーが印象に残りましたので報告いたします。
講演演題 『淋菌感染症のUpdate』
講師 田中正利先生(福岡大学泌尿器科教授)
【講演要旨】
淋菌感染症は、淋菌を病原体とするSTDの代表的疾患である。
主に男性は尿道、女性は子宮頸管炎を発症する。
最近、男性の淋菌性尿道炎においては風俗女性との口腔性交を介した感染者が増加している。
風俗女性の実に約3割が咽頭に淋菌を保菌しているためと考えられる。
淋菌の検出は、分泌物のグラム染色標本の鏡検法と分離培養法が基本であるが、近年核酸増幅法(PCR法、TMA法、SDA法)が開発され、信頼性の高い迅速診断法として臨床応用されている。
淋菌感染症に対する治療においては、近年わが国ではキノロン耐性淋菌をはじめとする各種薬剤耐性淋菌の急増により経口抗菌薬の有効率が低下し、本感染症に対する治療薬の選択肢が非常に少なくなっている。
日本性感染症学会が作成した2006年度性感染症診断・治療ガイドラインでは淋菌性尿道炎と子宮頸管に対しては注射薬のセフトリアキソン、セフォジジムまたはスペクチノマイシンの単回投与療法のみが推奨されている。