MSMの淋菌性咽頭炎
うだるような暑い日、26歳のイケメンが私の診療所にやってきました。
早速診察を始めると、
「先生、今日の朝、尿道から黄色い膿が出てきたんです。おしっこのし始めが痛くて参っちまって・・・」
とのこと。
「ふむ・・・」
私の経験と勘で、彼を見てピンと来るものがあり、ずばり彼に尋ねてみました。
「そうですか。で、相手の“男性”とは何をしたの?」
彼は「ばれたか・・・」とでもいう風にちょっと苦笑いをしましたが、すぐに
「今回は口だけです。お互いに!アナルはしていません。アナルはこの2ヶ月やってません。本当です」
と、男性との性交渉があったことをすんなり認めました。
彼の言動を見てMSMでは?と感じた私の勘は見事に当たっていました。
ちなみに「MSM」とは「Men who have Sex with Men」(男性とセックスをする男性)の略。
ゲイであれ、バイであれ、とにかく男性とセックスをする男性の総称です。
さて、私がさっそく彼のペニスを診察すると、みごとに尿道の先から黄色い膿が排出されていました。
これは立派な淋菌性尿道炎です。
続いて、
「オーラルをしたわけですから、咽頭の淋菌とクラミジアの検査もしましょう。」
と、こちらの確認も致しました。
尿道分泌物の塗抹標本を染色し、顕微鏡でみると、多核白血球細胞の中に双球菌が認められました。
典型的な、多核白血球が淋菌を貪食した所見です。
ちなみに、淋病の治療は現在は大変難しくなっているのをご存知ですか?
耐性菌の問題で難治性となっているのです。是非ご注意を。
このイケメン君には、日本性感染症学会のお勧めの注射薬(点滴)で治療し、検査結果の出る1週間後の再診を告げました。
そして1週間後、彼は約束通り受診してきました。
しかもパートナーのマッチョな彼を同伴して・・・!
イケメン君は開口一番、
「先生!注射した次の日の朝には膿がとまっていました。
すごいです。ビックリ、感謝です!今日はこいつも頼みます」
と告げ、パートナーにも症状があらわれていることを明かしました。
そこでマッチョな彼に検査をしたところ、やはりペニスも咽頭も淋病であることが分かり、前日の彼と同様の処置を施しました。
さて彼の検査の結果ですが、尿道分泌物の淋菌培養検査は陽性。
尿検査(遺伝子増幅法SDA法)ではクラミジアは陰性、淋菌は陽性。
咽頭検査(遺伝子増幅法SDA法)の結果も私の予想通り、淋菌は陽性、クラミジアは陰性でした。
私はイケメン君に結果を告げた後、
「さて、今日は淋病がチャンと治っているかどうかの、治癒判定検査をやりましょう。まさに卒業試験ですね」
と淋病の治癒判定をしたところ、こちらは一発で“試験合格”でした。
ところで、今回の淋病の感染源はどこだったのでしょうか?
イケメン君もマッチョ君も、それについては語らず、私もあえて追及はしませんでした。
もしかすると、どちらかの浮気が原因だったのかもしれませんね。
2010年07月26日