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淋病でないのに淋病にされた男(その4)

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前回までの3回で、2か所の病院から不適切な検査方法で「淋菌性咽頭炎」と診
断された男性を、私が「淋病ではない」と見破ったところまでお話しをしました。
詳しくは「バックナンバー」をご覧ください。
 
今日は淋病の検査方法について少しお話ししましょう。
やや難しい内容を含むかも知れませんが、知っておいて損はありませんので、どうぞお付き合いください。

現在、生殖器においてクラミジアと淋菌の検出検査は遺伝子増幅法であるPCR法が最も多く用いられております。しかし、口腔咽頭の淋菌検出検査にはPCR法は適しません。
これはどうしてでしょうか。
 
口腔内には常在菌(非病原性菌)であるナイセリア属が現在、わかっているだけで11種も存在しているそうです。
さらにやっかいなことに、病原性のある淋菌も実はこのナイセリア属なのです。
PCR法はナイセリア属と交差反応をしめすため、このナイセリア属の細菌を淋菌と間違えて検出してしまうということになるわけです。
 
前述の彼が何度も「陽性」と診断された理由はここにあります。
つまり、PCR法は生殖器の淋菌検出には優れた検査法ですが、口腔咽頭の淋菌検出には適しません。一方、SDA法とTMA法はナイセリア属と交差反応をしめさないため口腔内の淋菌検出検査に適しています。
 
現在、口腔内のクラミジア、淋菌の遺伝子増幅法検査について、
SDA法は2007年の6月から、TMA法は2009年の10月から保険適用になっています。
さらに付け加えてご説明しておくと、淋菌を特定するのに一番優れているのは淋菌培養です。
しかしこの検査法は特殊な専門培地(変法Thayer‐Martin寒天培地)と炭酸ガス発生装置が必要であり、かつ検体採取法、検体の保存、輸送などが面倒であるため現在では研究者レベルの検査法となりつつあり、あまり用いられていません。
 
ただしこの培養検査は淋菌の抗生物質に対する感受性検査、耐性検査、疫学的調査には大変重要であることは間違いありません。
今回の事例は、咽喉の専門家であるべき耳鼻咽喉科医でも、淋菌の検出検査の知識が十分でなかったため、患者さんに大きな迷惑をかけてしまった典型的な例と言えるでしょう。
 
この患者さんのように、淋病でもないのに淋病と診断され、おまけに必要のない治療までされることは他人ごとではなく、許されることではありません。
残念ですが、淋病の検査方法の適切な用い方については、まだまだ婦人科、泌尿器科、性病科のドクターに周知されていないばかりでなく、咽頭の専門家である耳鼻咽喉科医さえも周知されておりません。真にお寒い状況です。
現状では、これからも日本においてこのような事例が繰り返し起こることでしょう。
早急に、あらゆる情報媒体を通じて周知徹底しなければなりません。
 
私もこのような悲劇が起きないように、講演会、専門紙、一般紙、メディアなどを通して広く啓蒙活動をしていこうと考えています。


2010年04月21日

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