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第1回日本性感染症学会関東甲信越支部総会・学術講演会
平成22年9月26日(日) 東京慈恵会医科大学1号館3階講堂において、日本性感染症学会 第1回関東甲信越総会にて学術講演をする機会に恵まれました。 演題は『性感染症の咽頭感染をめぐる最新情報』です。 以下は、その際の講演要旨です。
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学術講演1.『性感染症の咽頭感染をめぐる最新情報』
宮本町中央診療所 尾上泰彦
『1.はじめに』
臨床医にとって男性の淋菌性、クラミジア性尿道炎の最大感染要因はオーラルセックスであることは周知の事実である。しかしながら、淋菌性・クラミジア性咽頭炎の実態はあまり知られていない。また、口腔咽頭の専門家である耳鼻咽喉科医の性感染症に対する関心度が低いのが現実である。この講演では淋菌・クラミジア感染症の疫学、特徴、咽頭炎の特徴、実際の臨床例、咽頭の検査法、検体採取法の実際、その成績および今後の課題などについて述べる。
『2.淋菌・クラミジア感染症の疫学』
2008年感染症発生動向調査による性感染症の報告数を見ると、第1位はクラミジア感染症、第2位は淋菌感染症である。男性で最も多いのはクラミジア感染症、次いで淋菌感染症である.女性で最も多いのはクラミジア感染症で報告数は男性の2倍以上ある。それに反し淋菌感染症はなぜか男性の1/3以下と少ない。年齢別ではクラミジア、淋菌感染症は男女とも20歳代がピークで女性の方が低年齢化傾向にある。
『3.生殖器淋菌・クラミジア感染症の特徴』
男性の淋菌性尿道は感染機会から約2~7日間の後に急に症状がでる。排尿痛と外尿道口からの黄色膿の排出が特徴である。クラミジア性尿道炎は感染機会から1~3週間の後に外尿道口より漿液性の分泌物を認め、尿道のかゆみ、違和感、不快感などを認める。しかし約50%が無症状である。
女性の淋菌性、クラミジア性子宮頸管炎の約70~80%は無症状である。症状がでると、帯下の増加、黄色帯下、不正出血、排尿痛、下腹部痛、性交痛などを認める。
『4. 淋菌・クラミジアの咽頭感染の特徴』
淋菌性・クラミジア性咽頭炎は他覚的(咽頭の発赤、腫脹など)・自覚的(咽頭の疼痛、イガイガ感など)な咽頭所見をほとんど認めないことが特徴である。生殖器に淋菌性・クラミジア性感染症を認めれば、そのパ-トナ-の口腔咽頭に知らずして淋菌・クラミジアが存在している可能性がある.
『5.淋菌・クラミジア咽頭感染の最大感染要因』
最大感染要因はオーラルセックスの日常化である。
2001年の性行動の全国調査では過去1年間にオーラルセックスをした人は55歳以上では約20~40%、18~24歳では約80%であった。このことは若者ではオーラルセックスが普通の性行動の一つであることを現している
『6. 男性尿道炎の原因菌別の性交形態』
2001年福岡市STD研究会の調査によると、性交形態別に淋菌:クラミジアの原因菌を比較すると腟性交のみでは23.8%:47.9%、オーラルセックスのみでは43.9%:21.0%、両方をした者では32.3%:31.1%であった。このことより淋菌性尿道炎の原因はオーラルセックスが多く、クラミジア性尿道炎の原因は腟性交が多いことがわかる。
『7.生殖器淋菌陽性者に占める咽頭淋菌感染者の割合』
2009年松本哲朗の報告によれば男性は46例中5例(10.9%)、一般女性は73例中43例(58.9%)、CSW(性風俗従事者)は7例中4例(57.1%)であった。
このことより咽頭淋菌感染者は男性より女性に多い。またCSWと一般女性とは同じ程度であり、オーラルセックスの日常化が進んでいることをあらわしている。
『8.診断』
咽頭の淋菌・クラミジア検査法
咽頭の淋菌検査法としては淋菌の培養がゴールドスタンダードであるが、現在あまり用いられていない。PCR(核酸増幅法)は口腔内の非病原性Neisserri属との交差反応があるため咽頭の淋菌検査に適さない。現在、咽頭の淋菌・クラミジア検査法としては核酸増幅法のSDA法、TMA法が保険適用になっている。
検体採取法
検体採取法としてはスワブ法、うがい液法がある。
スワブの狙い目は咽頭後壁の上半分がよい。下半分は咽頭反射が強く、患者に負担がかかる。慣れてくれば扁桃陰窩からの採取も可能である。うがい液法は0.9%生食水15mlで顔を上に向けて「ガラガラうがい」を約20秒行う。スワブより患者負担が少ない。検査手技が簡単。口腔咽頭全体の粘膜上皮と粘膜付着物を採取可能である。
SDA(strand displacement amplification)法による咽頭うがい液・スワブのクラミジア・淋菌検査陽性率
主にCSW 278例に行った成績(17~55歳:平均30.0歳)
淋菌検査(SDA)はうがい液法が11.2%、スワブ法が8.6%。
クラミジア検査(SDA)はうがい液法が5.8%、スワブ法が3.0%。
クラミジア検査(PCR)はうがい液法が6.1%、スワブ法が4.5%。
うがい液法の方がクラミジア、淋菌いずれも陽性率は高かった。
検査成績の特徴
①淋菌・クラミジアに対して特異性の高い核酸増幅法が開発され、咽頭における正確な遺伝子診断が可能になった。
②淋菌の生殖器感染者における咽頭の陽性率は男性26.9%、女性31.6%
③クラミジアの生殖器感染者における咽頭の陽性率は男女共、約30%
④男性は性器の淋菌陽性率が咽頭より高い.
⑤女性は咽頭の淋菌陽性率が性器より高い.
⑥子宮頸管は淋菌よりクラミジアの陽性率が高い.
⑦女性咽頭はクラミジアより淋菌の陽性率が高い.
⑧咽頭検査の陽性率はスワブ法よりうがい液法の方がやや高い.
『9.治療』
治療は日本性感染症学会 診断・治療ガイドラインに沿って行なう。
淋菌性咽頭炎の治療
推奨ランクA:セフトリアキソン(CTRX):静注 1.0g 単回投与
推奨ランクB:セフォジジム(CDZW): 静注 1.0g 単回投与
または2.0g×1~2回、1~3日間
スペクチノマイシン(SPCM)は効果が劣るため使用すべきでない。
高度耐性菌が存在するため内服薬は推奨されない。
2009年より新規抗菌薬としてアジスロマイシン(AZM)ドライシロップ2g(ジスロマックSR)が使用可能となった。
クラミジア性咽頭炎の治療
アジスロマイシン 1日 1000mg×1 1日間
クラリスロマイシン 1日 200mg×2 7日間
ミノサイクリン 1日 100mg×2 7日間
ドキシサイクリン 1日 100mg×2 7日間
レボフロキサシン 1日 500mg×1 7日間
トスフロキサシン 1日 150mg×2 7日間
咽頭感染は生殖器感染よりも治療に時間がかかると報告されている。
2009年よりアジスロマイシン2,000mgドライシロップが使用可能となったが、国内の臨床治験は行われていない。
『10.今後の課題』
・咽頭淋菌・クラミジア感染の病態の解明
・無症候性感染の増加に対するスクリーニング方法の確立
・耳鼻咽喉科医のSTIへの積極的参加
・咽頭感染の疫学調査
・咽頭感染症に関する保険診療の環境整備など。
『11.最後に』
若者の間でオーラルセックスが日常化している現在、口腔・咽頭は「性感染の温床」と化している。困難ではあろうが、もし口腔・咽頭の性感染症をコントロールできれば、STI全般が激減することが予想される。また耳鼻咽喉科医のSTIへの積極的参加が望まれる。
講演ではクラミジア、淋菌の咽頭感染の臨床症例写真を提示いたします。
2010年09月28日