日本発「スーパー淋病」の恐怖
日本発「スーパー淋病」の恐怖
薬が効かない! 一生治らない!?
世界保健機関(WHO)が「壊滅的被害も」と警告
[高齢者も要注意]
WHOがいま、世界的な蔓延を警戒する病気、それが「淋病」である。たかが性病と侮るなかれ、現在大流行している新種の淋病は、薬も効かず、一生治らない可能性すらある。
しかも、その「スーパー淋病」が発見されたのは、この日本だった。
京都のヘルス嬢から「発見」
世界保健機関(WHO)のケイジ・フクダ事務局長補は記者会見でこう述べた。
「終末論的な幻想ではないが、一般的な感染症や軽傷が致命的となるポスト抗生物質が21世紀に到来する可能性は非常に高い」
「抗生物質の開発や生産、処方の方法を変えなければ、世界は公衆衛生の実現手段を 失い、その影響は壊滅的になる」・・・・・
この4月30日に発表された「抗菌薬剤性:2014世界報告」は・・・・
従来の抗生物質では死滅しない「超強力な細菌(スーパーバグ)」に関する調査結果や医療の状況などについて報告した。
この報告書のなかでも世界中でもっとも注目を集めているのが、意外にも「淋病」に関する記述である。
淋病とは、淋菌の感染によって起きる性感染症の一つだ。性行為やオーラルセックスで感染し、淋菌は性器や咽の奥で繁殖し、淋菌性尿道炎を発症する。
男性の場合、尿道内に炎症が起きて、尿道から膿が流れ出て、排尿時には鋭い痛みを感じる。
女性の場合は、自覚症状がないことが多いが、放置すると菌が骨盤内の膜や卵巣、卵管に進み、内臓の炎症や不妊症、子宮外妊娠に発展することもある。
出産時に母子感染も起き、子供の目に淋菌がついて失明する危険もある。
報告書によれば、世界では100万人以上が淋菌に感染しているという。
淋病の治療には、セフィキシムという抗生物質が世界中で使われているが、耐性菌の 出現で使えなくなっている国として、オーストラリア、フランス、日本など10か国が挙げられている。
淋病研究の権威で、元・産業医科大副学長の松本哲朗氏(現・北九州市役所保健福祉局医務監)はいう。
「淋病に抗生物質が効かなくなりつつあります。最初はペニシリンが効かない耐性菌ができ、それ以降、さまざまな抗生物質が開発されては効かなくなった。日本においてセフィキシムは、決められている投与量では効く人と効かない人が半々という状況なので、現在は注射剤のセフトリアキソンという抗生剤が主に使われています。
しかし、このセフトリアキソンも、4年前に日本で完全に耐性をもつ菌が発見され、世界の医療関係者に衝撃が走ったのです」
“最後の切り札”ともいえるセフトリアキソンにも耐性をもつ「スーパー淋病」がすでに誕生しているのである。しかも、世界で初めてこのスーパー淋病が発見されたのは日本だった。
その耐性菌を発見したのが、保科医院(京都市)の保科眞二医師である。
「京都市内のファッションヘルスに勤める女性(当時31歳)の定期検診で、咽が淋菌に感染していることがわかり、セフトリアキソンを投与したところ、菌が消えなかったのです。
それで菌を採取したのち、もう一度、投与したところ、菌が消えた。ただ、咽頭淋菌は当医院の調査によると25%は自然になくなっていくので、抗生剤が効いたのか、自然になくなったのかは定かではありません」
採取した淋菌を解析したところ、セフトリアキソンに対する非常に強い耐性をもっていることが判明したのだ。世界にショックを与えた、スーパー淋病発見の瞬間である。
一生セックスできない
梅毒と並ぶ「性病」の代名詞ともいえる淋病だが、致死率は低く、直接死に至る病とはいえない。
ただ、体が弱っている人だと、性器や咽だけでなく、淋菌が全身に回って炎症を広げ、別の病気を発症して死に至ることもある。
もしスーパー淋病が蔓延し、根治(淋菌を完全に殺す)できなくなれば、炎症を抑えるなどの対症療法しかなくなり、膿が出て性器に痛みが走るといった症状と一生つきあうことになる。
隔離されることはないまでも、セックスはできなくなる。
日本で確認されているスーパー淋病の事例は、今のところ京都の1件のみだが、海外ではヨーロッパとオーストラリアで発見され、増加しつつある。もちろん、日本は1件だけだから安心だとはいえない。
「女性の場合、症状が出にくいので、他で耐性菌が生まれ、感染に気づかないままもっている人がいるという可能性は考えられます。それが広がらないかどうか、心配されるところです」 松本氏はそう警告する。
海外で性的な接触をした人が日本に持ち込んでしまったり、海外の保菌者が日本で持ち込んでしまったり、海外の保菌者が日本に旅行に来て持ち込む可能性も十分にあるのだ。
スーパー淋病に効く新たな抗生物質の開発 が望まれるが、「今のところ、セフトリアキソンにかわる有効で使いやすい抗生剤は存在しない。製薬会社や国の研究機関も含めて、新しい抗生物質の開発スピードが鈍っているというのが厳しい現実」(松本氏)だという。
耐性菌と新薬のイタチごっこはこれまでずっと続いてきたが、いよいよ限界。
そのためWHOも異例の警告に踏み切ったのだ。
素人女性が危ない
厚労省の性感染症報告数の調査によれば、淋病は02年の2万1921件をピークに減少してきたが、10年ごろに底を打ち、ここ数年は1万前後で横ばいが続いている。
「根絶できなかったのはさまざまな要因が考えられますが、不十分な治療や海外からの持ち込みで、耐性菌が増えたこともその一つといえます」(前出・松本氏)
現実にいま、淋病感染の温床になっているのは、性風俗産業よりも、素人女性だといわれている。
前出の保科医師は、実態をこう語る。
「風俗の女性は、店が定期検診を受けさせることが多いですが、素人の女性は検診を受ける機会が少ない。女性は自覚症状が出ないことが多いので、なかなか検診にまで至らないのです。
妊娠中絶を希望されてくる女性を検査すると、感染していることがあります。性的に活発な女の子たちは、概して無防備なので陽性と出ることが多い。実感としては風俗の女性より素人の方が
危ないように思います。高校生もいますよ」性に解放的な若年層の女性が感染源となるケースは多いのである。
65歳夫婦で感染
体の構造からしても、若い女性の方が淋菌に感染しやすいという。
性感染症に詳しい宮本町中央診療所の尾上泰彦医師が解説する。
「若い女性の子宮腟部・頸管部の粘膜には円柱上皮細胞が存在します。淋菌やクラミジアはこの円柱上皮細胞が好きで、この細胞のあるところに好んで住み着くと考えられています。
しかし閉経期を過ぎると、この円柱細胞が子宮腟部・頸管部から消失していきますから、淋菌感染症やクラミジア感染症に罹りにくくなると考えられています」
もちろん、これは程度の話であって、高齢の女性なら感染しないというわけではない。
「セックスパートナーがいてセックスをしていたら、60~70代の女性でも、淋病に罹るリスクが出てきます。(前出・尾上氏)
もちろん、若い女性とセックスをしたシニア男性にも、感染リスクはある。
実際に尾上医師の元へ訪れた65歳の女性で、淋菌に感染していたケースがあったという。
「先生、おりものが変なんです。旦那が遊び人なんでちょっと心配で、診ていただきたいんですが・・・・・・」と受診してきた女性に対し、子宮頸管・腟分泌物の検査を行ったところ、子宮頸管から膿性の分泌物が認められた。
「65歳という年齢から考えて、淋菌感染症は考えにくい」とは思ったものの、HE染色の顕微鏡検査で淋菌の痕跡が認められ、さらに淋菌の分離培養で、淋菌が検出されたので淋菌性子宮頸管炎と診断した。問診を進めると、この夫婦には週に1回程度の性交渉があった。女性によれば夫以外との性的交渉はないという。「旦那さんはどうしていますか?」と聞くと、2週間前から激しい腕の関節炎で、ある病院の整形外科の入院しているとのこと。
「私の推察では、この方の夫は『播種性淋菌性関節炎』(淋菌が血液に侵入して全身に回って関節炎を引き起こす淋菌感染症)の可能性だ大です」あくまで想像だが、夫がどこかで浮気して感染し、妻にうつしたものと考えられる。
成城松村クリニックの松村圭子院長はこう指摘する。
「高齢者が性感染症に感染するのは、女性が閉経して妊娠しないため、コンドームを着けずに性交したことが原因であることが多い。オーラルセックスのときも、コンドームをしっかり着けることが大事です」特定のパートナーとのセックスでは不要だが、それ以外の相手との性行為では、しっかりとコンドームを装着することが、エイズに限らず、淋病の感染を防ぐうえでも効果的だという。スーパー淋病に対しても、正しく怖がる姿勢が大事だ。
尾上泰彦
2014年06月05日