Home > 【梅毒】 > 『梅毒の診断と検査法について』5.検査の問題点・治癒判定について
『梅毒の診断と検査法について』5.検査の問題点・治癒判定について
少し専門的になりますが、6回にわたって梅毒の診断・検査法・検査の問題点・治癒判定・梅毒の届け出などについて勉強しています。
今回は梅毒シリーズ(全6回)の5回目です。
5.検査の問題点・治癒判定について
さてこれら梅毒血清反応検査は従来、検査技師が用手的手技にて血清抗体を希釈し、目視で凝集反応の有無を確認する方法でした(以下「倍数希釈法」)。
前述したガラス板法およびRPRカ-ドテストなどはこの倍数希釈法の代表であり、
キット化されています。
倍数希釈法は本邦で広く用いられていましたが、用手操作による検査技師の感染の危険性や、結果の判定を目視で行うために客観性が乏しいといった問題点が指摘されていました。
こうした用手操作、目視判定が必要な検査に代わり自動分析器で自動測定が可能な新しい検査方法(以下「自動化法」)が本邦において普及しつつあります。
自動化法は主にラテックス凝集法を原理として凝集反応により生じる吸光度の変化から抗体価を測定します。
臨床において自動化法の普及を知らない医師が直面する問題はその結果の取り扱いです。
問題点の第一には倍数希釈法と自動化法では結果の表記方法が異なるという点があげられます。
前者は1倍をカットオフとして1倍未満、1倍、2倍、4倍、8倍、16倍、32倍、・・・と2n乗倍の非連続値で表記されるのに対して、
後者は 1.0をカットオフとして小数点第一位まで記載する0から始まる連続値で示されます。
第二に倍数希釈法と自動化法がどのように対応するのか明確に示されていません。
自動化法の試薬メ-カ-は両者ができるだけ一致するように設計したと言っていますが、では自動化法を倍数希釈法にどのように置き換えればいいのか定義されているわけではありません。
さらに実際に同じ検体で自動化法と倍数希釈法を測定するとばらつきが出てしまいます。
私見を述べれば両者は結果に相関性のあるものの、一定の法則性をもって置き換えるような検査ではないと考えた方が混乱しません。
第三にこの自動化法を用いた治療の評価測定方法が明らかにされていません。
倍数希釈法では希釈系列で2管以上の変化(前後比較して4倍以上の変化)を有意な変化として治癒判定や再燃、再感染の判定に想定していましたが、自動化法ではどの程度変化することが有意なのか明らかになっていません。
本邦では外科処置の前や産科での妊婦のスクリ-ニングとして梅毒血清抗体検査が行われています。
つまり検体数の非常に多い検査ということもあり、利便性簡便性に勝る自動化法が普及しつつあります。
残念ながら自動化法による治癒判定の基準は現時点では示せませんが、私見を述べればまず前述したとおり自動化法の結果を倍数希釈法に当てはめようと考えることはしない方がよいといえるでしょう。
次に自動化法は従来の倍数希釈法よりも治療で大きく低下し陰性化する(1.0未満になる)傾向が比較的高いことと、わずかな変化も検出できる傾向があることを知っておくとよいでしょう。
この点は基本的には従来の方法よりも定期的な採血さえ欠かさなければ病勢や治癒の判定において有利に働きます。
倍数希釈法を使用していた場合と同じく大切なのは治療後に定期的に採血を行い、その推移をみることです。
減少する傾向があれば治療が奏功している可能性を示し、高値のまま不変な場合や、増加する傾向があれば治療の失敗や再感染の可能性を示します。
判定が難しい場合や再燃の可能性を考慮する場合には採血の間隔を短くしたりするなどで対応します。
こうしたことは別に自動化法でも倍数希釈法でも変わらないし、自動化法を特別に考える必要はありません。
たしかに本邦のガイドラインでは治癒判定に関して倍数希釈法で8倍以下を目標とする記載がありますが、これも絶対ではありません。
8倍だから大丈夫というものではないし、ある程度の目安でしかないと考えるべきです。
ではその目安が自動化法ではどの値になるのかに関しては、今後の課題にはなりますが
その目安が示されたとしても、それはあくまでも目安であり、治癒確実とするものではありません。
カルジオリピンを抗体とした抗体価は病勢を示してはいますが、その病勢を把握するためには臨床症状や抗体価の推移の情報が必要であるし、数値の絶対値で明確に評価できるものではありません。
数値が高いから病原体を保有していると断じるものではありません。
今後梅毒血清反応より鋭敏な治癒や再感染の判定方法、検査が望まれますが、現状ではこの検査を用いるしかありません。
患者には治療初期から定期的な通院と採血による抗体価の推移の評価が必要である旨を十分説明することを勧めます。
次回は、この梅毒シリーズ(全6回)の最後になりますが、「6.梅毒の届け出」について勉強いたします。
お楽しみに!
この絵は“性器を武器にして戦ったフランス女性”です。
「黒い襟巻をつけた婦人」 ロートレックス画
1870年代 フランス・プロシャ戦争
『…・私もやつらに、手あたり次第、梅毒をうつしてやりました・・・・』
『梅毒は彼女にとってプロシャ人と戦うための武器だった!』
新潮文庫「モーパッサン短編集3」より
2015年09月17日
トラックバック
このエントリーのトラックバックURL:
http://www.dr-onoe.com/mt/mt-tb.cgi/213