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「排尿時の矢状面の女性尿道の動きに関する研究」

2011年の暮れに起きた大変興味あるエピソードについて報告いたします。

 日本大学医学部泌尿器科学教室の主任教授の高橋悟先生から、

「女性の排尿時の排尿に関する筋肉の動きを研究したいので、

被験者になってくれる健康な成人女性を探してほしい」とのご依頼がありました。
 
私は、その時ある女流作家を、頭に思い浮かべました。
 
その作家に連絡し、事情を話すと「良い女性がいますから連絡してみます」
 
ということになりました。
 
そこで高橋悟先生と私、そして女流作家と被験者の女性、
 
つまり4人でその研究についての詳しい説明会を某ホテルで行いました。
 
なんとその被験者の女性から、快くその研究に協力したいと言っていただきました。
 
驚くことに、その被験者の女性も女流作家でした。
 
こうして、研究実施の日を待ちました。
 
年が明けて2012年の正月早々、その日が来ました。
 
実はこの研究は京都府立医科大学泌尿器外科教室の名誉教授の渡辺泱先生と
 
高橋悟先生の共同研究です。
 
その研究論文:『前立腺前部筋繊維構造(AFMS)は尿道筋だった!』

渡辺記念長命研究所 渡辺 泱

以下に、渡辺先生の投稿会誌「橘鴨会誌」第25号 2015年11月29日発行(p4~9)、
 
発行者:京都府立医科大学泌尿科学教室同門会の論文抜粋要旨をお示しします。
 
前立腺前部筋繊維構造(AFMS)の機能を発見した時点では
 
「前立腺の一部が排尿機構に関与している」ものと考えていた。
 
つまり男性に特有の機構だろうと理解していたのである。
 
しかし私は、その機構がどのように機能しているのかを推理しているうちに、
 
どうしても女性尿道は排尿時にどうなっているのかを知りたくなった。
 
すでに経直腸的実時間リニア超音波断層法はあれほど広く普及していたのに、

まだ排尿時の女性尿道を見た人は一人もいなかったのである。
 
そこで浮村先生にもぜひ女性尿道を調べてみるよう勧めていたのだが、

適当な被験者を見つけるのが困難だった。
 
日本大学泌尿器科学教室の高橋 悟教授は私の年来の学友である。
 
以前からいろいろなところで会っては、いろいろな研究上の問題をお互いに
 
討論しあっていた。
 
何かの折にこの女性尿道についての宿題を私から耳にしていた教授は、
 
2011年の暮れに突然電話で「良い被験者が見つかりました」と連絡くださった。
 
何でも川崎で泌尿器科クリニックを開業している、教室の同門会長の
 
尾上泰彦先生が、知り合いに被験者になってもいいと言ってくれている女性がいる
 
という話である。
 
この千載一遇の好機を逃がしてはならじと、超音波の描出には完璧を期すために、
 
これも年来の学友の婦人科超音波における本邦の第一人者千葉喜英先生
 
(前国立循環器病センター産婦人科部長)に走査の実施を依頼し
 
(この先生でなくてはこんなに綺麗な画像は得られなかったことが後から分かった)、
 
明けて2012年の正月早々、二人で日大泌尿器科の診察室を訪れた。
 
そこに待っていたSさんは、最近自身が執筆した推理小説が賞をとったと
 
いう大変魅力的な女性で、よく研究の意義を理解した上で検査に協力してくれた。
 
後でこの研究を発表した私たちの論文の女性尿道の附図が、
 
当月号のInternational Journal of Urologyの表紙絵に選ばれたので、

その号を一冊Sさんに献呈したところ、「私の尿道が学術雑誌の表紙になった」と、
 
大変喜んでいただいた。

さて、こうして得られた排尿時の矢状面の女性尿道の動きを見た途端、
 
その場に居合わせた泌尿器科医たちは一斉に驚きの声を挙げた。

女性尿道は、その前方と側方を内層縦走平滑筋と外層輪状横紋筋の

二重の筋構造から成る厚い筋束に囲まれているが、後方にはほとんど

筋構造がなくそのまま膣前壁に固定されている。

両面の上の超音波画像では、排尿開始時に膀胱収縮に先立って

この筋束が見事に前後方向の厚さを減じ、積極的に尿道を拡張させ、

排尿が終了すると同じ筋束が今度は膨隆して尿道腔を完全に閉鎖するのが、

手に取るように見えたのである。さらにその構造と動き方は、

すでに私たちの業績で明らかになっていた男性におけるAFMSのそれと

ほとんど同一といってよいほどよく似ていることが、一目で了解できた。

両者の僅かな相違点は、女性尿道はAFMSに比べてより筋の厚さが薄く、

より直線的であっただけだった。

以下は省略する。


橘鴨会誌

20151227_1.jpg

正常女子の排尿時における尿道の実時間経膣的超音波断層像(矢状面)尿道前方の筋束が前後方向の厚さを減じて積極的に尿道を開大させている。

20151227_2.jpg

迎春

20151227_3.jpg




2016年01月04日

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