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梅毒の無痛性横痃について

Visual Dermatology  2016 Vol.15 No.9  908~909頁
秀潤社(2016年8月25日発行)
特集: 皮膚科で診るSTI② 梅毒ーーthe great imitator
責任編集: 渡辺 大輔

  私は分担執筆で「無痛性横痃」を担当いたしましたので報告いたします。

①Visual Dermatology 2016 Vol.15 No.9 

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②無痛性横痃
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梅毒の初期症状は第1期梅毒とよばれ、陰部の初期硬結とそこに生じる無痛性潰瘍、
 
そして鼠径リンパ節の無痛性の腫脹からなる。
 
これらを初期硬結、硬性下疳、無痛性横痃とよぶ。
 
横痃は「よこね」ともよび、鼠径部リンパ節腫脹のことを指す。

 
③無痛性横痃(左鼠径部)
20代男性。陰茎部に直径15mm大の潰瘍がみられる(➡)。
また鼠径部リンパ節に示指頭大の腫脹が数個ある(囲み)。
いずれも無痛性である。
無痛性横痃とは、このリンパ節無痛性腫脹のことを示す。

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④硬性下疳と無痛性横痃
参考症例:40歳代男性。
左側鼠径部リンパ節の腫大がはっきりわかる。無痛性である。

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硬性下疳は放置すると数週間で自然消退し、梅毒トレポネーマが全身的に撒布され、
  
皮膚症状を主とする第2期梅毒に移行する。
  
無痛性横痃は初期硬結、硬性下疳に引き続いておこるのが通常であるが、
  
それ単独でおこる場合もある。
⑤初期硬結の典型例
30代、男性。 初期硬結はトレポネーマの侵入部位である。

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診断については、血清学的検査は感染のごく初期では偽陰性を示すことが
  
しばしばあるため、上記の症候をみたら再検査が必要である。
  
患者がリンパ節腫脹のみを主訴として受診することはまずないが、
  
オーラルセックスの時代、男性では尿道内に、女性ではクリトリス周辺に
  
発症する場合があるので、丁寧な視診が必要である。
⑥20代、男性。尿道内に発症した硬性下疳
尿道内に無痛性潰瘍を認める。
痛みがないため患者は気づかない。

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⑦20代、女性 陰核付近に発症した硬性下疳
陰核付近に潰瘍が存在する時は包皮をめくって確認する必要がある。
女性の場合、外陰部のみに硬性下疳が存在するとは限らないため、
腟壁、子宮腟部の視診も必要となる。

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皮膚科医が女性患者で梅毒を疑ったら婦人科と連携し、腟壁・子宮腟部等の
 
梅毒所見の有無について確認してもらう必要がある。
 
また、梅毒を疑うポイントとして、感染機会が3週間前というキーワードは
 
非常に重要である。
 
同じ潰瘍をつくる性器ヘルペス初感染例では、感染機会ら2~10日で発症し、
 
潰瘍は痛みがあり、鼠径リンパ節有痛性腫脹を伴うことから、問診により鑑別できる。
 
他項でも述べられている通り、近年は都市部を中心として梅毒の爆発的増加がみられる。
 
筆者はこのままだと梅毒のパンデミックがおこるのではないかと危惧している。
 
初期段階で正確に診断し、最近改定された日本性感染症学会の
 
梅毒治療ガイドラインに則った適切な治療を行うことを推奨する。




2016年09月01日

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