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講演「アトラスで見る梅毒の臨床現場」
2017年3月9日(木) 19:30~21:00
都筑区医師会会議室 2階で私の「梅毒」に関する講演がありましたので
報告いたします。
主催:都筑区医師会泌尿器科医会
共催:都筑区医師会皮膚科医会、産婦人科医会、内科医会
司会:深澤 立先生
座長:木村 明先生(木村泌尿器科皮膚科 院長)
【講演】
『アトラスで見る梅毒の臨床現場』
宮本町中央診療所 院長 尾上泰彦
①第9回都筑区医師会泌尿器科医会学術集会
「梅毒」という病名の由来は第2期の赤い丘疹が楊梅(ヤマモモ)の
果実に似ているので楊梅瘡(ようばいそう)と呼ばれていました。
いつの間にか「楊」の字が取れて、
次第に梅瘡⇒黴毒⇒梅毒と変化したと言われています。
また、梅毒はクリストファー・コロンブス一行が1492年、新大陸の
発見と共に❝原住民の風土病❞をヨーロッパに持ち帰ったとされ、
「悪魔のお土産」といわれました。その後、爆発的に全世界に拡がり、
日本への伝来は永正九年(1512年)で、
約20年足らずで日本にやってきました。
恐るべし、セックスのパワー。
梅毒のヨーロッパ伝播の通説であります。
②恐るべし『悪魔のお土産』梅毒?
本講演では、私が経験した梅毒症例を中心に臨床写真を提示しながら
視診技術のポイントについて述べました。
ご存知の通り「今や、梅毒はパンデミック状態」であり、
大きな社会問題になっております。
忘れられていた梅毒。
昔の病気と思われていた梅毒。
若い医師が見たことがない梅毒。
そういう意味では再興感染症でもあります。
臨床医は忙しい。多くの医師は届けない。
届け出は氷山の一角。
梅毒は全数報告で、どんな医師でも「梅毒」と診断したら
都道府県知事に7日以内に届け出る義務があります。
それでも梅毒は2011年以降、大都市を中心に徐々に増加し、
現在、アウトブレイクしています。
③梅毒の発症届け出 診断後7日以内に!
2016年(12月31日現在)の梅毒患者数は4518人と
激増しています。
それでは何故、梅毒が増加しているのか?
何故、この5年間で梅毒が急増したのか?
しかも、なぜ、若い女性に急増しているのか。
確かに、先天梅毒児も毎年増加傾向を示し、
胎児感染で重い障害の恐れもあり、社会的に危惧されています。
疫学調査によりますと、年齢群別報告数の男性のピークは20~40歳代です。
それに比して、何故か、女性のピークは20代前半の20~24歳にあります。
その原因、理由はわかりません。
④梅毒患者の報告数推移2007~2016年(12月31日現在)
しかも、この謎に迫る疫学的調査は、
内容があまりにもプライベートでプライバシーにかかわるため
調査の仕様がありません。
日本人の性行動様式が急に変わることは考え難い。
しかし、若い20代前半の女性に急増しています。
⑤何故、ここまで急増したのか?
急増の原因は、内的因子では考え難く、外的因子も考えなければなりません。
2017年1月6日の 讀賣新聞夕刊では
「梅毒患者5年で5倍」と報道されました。
この原因として一説に、2016年外国人旅行者が、初めて
2400万人を超えました。
中国などアジア地域の旅行者が大幅に増加しています。
これが原因の一因なのかもしれません。
日本政府観光局の報告によりますと来日する中国人は、
2008年に初めて100万人を突破し、徐々に増加し、
2016年には637万人以上と急伸しています。
この外的要因が原因とは、根拠がないためはっきりとは
言えませんが、 一因の可能性もあります。
確かに来日する中国人が急伸しています。
中国衛生部が発表した「全国法定伝染病疫情状況」によりますと、
2013年度の梅毒感染者数は406,772人で、
これは15年前の10倍以上とのことであります。
また、中国国家衛生・計画出産委員会HPによりますと、
2015年のみの中国の梅毒患者数は433,974人
(参考:2015年の日本の患者数は2,698人)です。
つまり、中国における梅毒患者数は日本をはるかに
上回る増加をみせています。
中国の総人口は日本の11倍以上ありますが、
梅毒患者数は日本の160倍超といいますから、
梅毒の急伸状態には驚きであります。
こうした経路で日本の若い女性に梅毒患者が増え、
日本での感染が増えたという可能性は考えられます。
⑥梅毒流行の原因?
また、2014年の中国 江西省南昌におけるストリートガールの
梅毒血清反応検査の陽性率を見てみますと
40%以上とかなり高率で驚きを隠せません。
⑦江西省南昌における娼婦の梅毒血清反応陽性率
まさに梅毒に国境はないともいえます。
梅毒の病因については写真を参考にしてください。
⑧梅毒 Syphilis
梅毒の病原体である梅毒トレポネーマはスピロヘータ科のトレポネーマ属に属するグラム陰性菌です。
⑨梅毒の病原微生物 はSpirochaeta pallidum
梅毒トレポネーマの特徴は写真を参考にしてください。
⑩梅毒トレポネーマの特徴
梅毒の分類は
1.先天梅毒、後天梅毒
2.顕症梅毒、無症候梅毒
3.早期梅毒、晩期梅毒
の3つに分類されています。
臨床症状としては第1期に生じる初期硬結はめったに遭遇しません。
硬性下疳は比較的多く経験できます。
硬性下疳は、周辺が隆起し、軟骨様の硬さがあり疼痛を伴わないのが特徴です。
女性の硬性下疳は比較的稀です。
鼠径部リンパ節無痛性腫脹は腫脹はありますが、
痛みがないので注意しなければなりません。
⑪硬性下疳は周辺が隆起し、軟骨様の硬さがあり疼痛がない。
第2期(バラ疹、梅毒性乾癬、脱毛、扁平コンジローマ、
口腔咽頭粘膜斑など)になりますと、梅毒は非常に多彩な症状を呈します。
⑫症例:女性 第2期 梅毒性乾癬 手掌・足底
⑬症例:男性 第2期梅毒 口腔咽頭粘膜斑
第3期、第4期の臨床像、悪性梅毒。HIV感染症との関係。
⑭第3期 結節性梅毒疹 ペニシリンのない時代!
眼にも梅毒は感染します。
梅毒性ぶどう膜炎、梅毒性網膜炎が代表的です。
眼科領域でもHIVとの併発症例も多く報告されています
⑮眼の梅毒感染
梅毒の診断・検査、治療さらには
臨床医の落とし穴について解説しました。
梅毒の感染予防の基本ですが、
臨床現場での患者への説明と指導が最も大切です。
また、梅毒の感染予防の基本は
1.不特定多数の人とセックスをしない.
2.最初から最後までコンドーム.
3.オーラルセックスも安全ではない.
4.この人は大丈夫と思いこまない.
5.不安行為があれば時期をみて検査を受ける.
6.感染がわかれば徹底治療.
⑯梅毒の予防 感染予防の基本
これらの臨床現場のアトラスを提示しながら紹介・概説しました。
⑰座長:木村 明先生と共に
参加された先生方は非常に熱心に聴講されていました。
泌尿器科医、皮膚科医、産婦人科医、内科医と幅広く参加されていました。
司会の深澤 立先生(泌尿器科医会会長)には企画の段階から大変お世話になり、
深く感謝申し上げます。
以上、報告いたします。
2017年04月11日
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